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キチン
I. プロローグ

キチン質ともいう。天然の高分子で、カニやエビなどの甲殻類や節足動物などの外殻(外骨格ともよばれる)、キノコ類、真菌類の細胞壁(細胞)などをつくっている主成分である。ひじょうにかたくて丈夫な物質である。骨格

生物体の形をつくっている多糖類を構造多糖というが、植物の細胞膜が多糖類の一種であるセルロースによってつくられているように、下等動物の外骨格をつくっているキチンも、同じ多糖類のムコ多糖(別名グリコサミノグリカン、一部のヒドロキシル基(水酸基)がアミノ基に置換されたアミノ糖という単糖類をふくむ多糖類)によって形づくられている。

II. キトサン

キチンを濃アルカリ溶液とともに加熱し、脱アセチル化した物質がキトサンである。通常は、脱アセチル化度が50%以下をキチンといい、50%以上をキトサンといっている。キトサンは、化学命名法ではβ-1、4-ポリ-D-グルコサミンというポリマーである。濃塩酸で加水分解すると、モノマーのD-グルコサミンになる。

6個の炭素分子をもつ単糖類のアルキル基が一部アミノ基で置換されたアミノ糖を総称してヘキソサミンというが、D-グルコサミンもヘキソサミンの一種である。ヘキソサミンは、ワクスマンが発見したストレプトマイシン、梅沢浜夫が分離したカナマイシン、ピューロマイシンなどの抗生物質やその誘導体として知られている。

III. キトサンの利用

1年間に地球上で生物が生産するキチン質は、1000億t程度になると推定されている。エビやカニなどの水産物を大量に消費する日本では、殻が大量の廃棄物となり、水産加工業者が密集する港町では、公害問題までひきおこしてきた。

しかし、研究の結果、これらの廃棄物が実は有用な資源であることが認識されてきている。

1. 工業的な利用

キトサンは、弱酸性溶液に溶解すると、アミノ基がアンモニウム化して陽イオン性高分子(ポリカチオン)となる。多糖類でポリカチオンとなるものはキトサンだけで、この性質を利用した用途がもっともはやく工業化された。カチオンは、懸濁液の微粒子を集合させて沈殿させることから、産業廃液の処理剤としてつかわれはじめた。重金属や放射性物質の凝集剤としても開発されている。

キトサンは、土中で微生物によって分解される生分解性のプラスチックとしても利用できる。また、多孔質のキトサンは、酵素を安定して吸着するので、バイオエンジニアリングへの応用も研究されている。

ほかには、繊維メーカーではキトサンを利用した抗菌防臭繊維や防水・透湿織布、大阪工業試験所では、キトサンを化学修飾、誘導した高性能で、耐久性のある高分子の湿度センサー(センサー)をそれぞれ開発している。

2. 医療での利用

キトサンは生体内で分解され、しかも生体となじむので、生体適合性材料として製品化されている。

手術のときに切開部を縫合する糸をキトサンでつくると、時間の経過とともに生体組織に吸収されていくので、抜糸を必要としない。やけどや外傷で皮膚を損傷したときに、傷口を保護しながら皮膚組織の再生をはかったり、移植手術までの処置として、キトサンの人工皮膚でおおうことが盛んにおこなわれている。

キトサンには、生体に悪影響をあたえずに保護するだけでなく、皮膚組織などの再生を促進する効果があることがみとめられている。同様に歯根膜を再生する作用も発見され、歯周病の治療薬としての可能性もある。さらに、多孔質のキトサンでつくったカプセルは、副作用の強い抗癌剤をゆっくりと一定の濃度で効果を発揮させる、ドラッグ・デリバリー・システムとして利用する方法も考案されている。

そのほか、血液中のコレステロールの降下作用、免疫機能の活性化、細菌を攻撃するリゾチームの分泌を促進する、癌(がん)の抑制作用、植物の成長を促進する、余分な脂肪分を吸収して排泄(はいせつ)する、土中の微生物バランスを調整する、などの作用があるといわれている。

IV. キトサン利用の課題

さまざまな応用が研究されているキトサンだが、現在のところ天然原料からの前処理をふくめた製品の製造コストが課題になっている。

そのため、医療など高付加価値がみこめる分野では活発な開発がおこなわれているが、吸着剤やプラスチックなどの工業分野では、さらに生産コストをひきさげる開発が必要とされている。