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| I. | プロローグ |
物質とエネルギーの巨視的な系における熱現象を記述し、相互関係を明らかにする物理学の分野。
熱力学においては、無限でみだされない環境の中におかれた、ひとつの巨視的な系を想定することからはじまる。巨視的な系の状態は、温度や圧力、体積などの熱力学変数をもちいて記述することができる。密度や比熱、圧縮率、熱膨張率などの変数も、物体と環境との関係を記述するのにもちいられる。
ある巨視的な系が、ある平衡状態からもうひとつの平衡状態に移行するとき、熱力学的な過程をへる。過程には可逆的なものと非可逆的なものとがある。熱力学的な過程は、熱力学の法則にしたがう。熱力学の4つの法則は、数々の困難な実験のすえに19世紀に確立された。
| II. | 熱力学の第0法則 |
経験による事実を実証する方法をとる経験科学では、用語は日常的な言葉をつかうことが多い。温度という言葉もそうで、常識的にわかるが、非数学的な言葉のゆえの不正確さになやまされる。熱力学の第0法則とは、この温度について、経験的ではあるが明確な定義をしたものである。
熱力学の第0法則では、2つの系のそれぞれが熱平衡状態にあり、それぞれがさらに第3番目の系と熱平衡状態にあるとすると、最初の2つの系もまた、たがいに熱平衡状態にあることになる。この熱平衡状態のときに共有している物理量が温度である。
もし系がある一定の温度をもった無限に大きい環境と接触しているならば、その系は徐々にその環境と熱平衡に、つまり同じ温度に達する(いわゆる、このような無限に大きいという数学的概念をもった環境を熱だめとよび、実際にこの環境は考えている系にくらべてじゅうぶん大きい場合のみを考慮している)。
温度は温度計とよばれる器具などをつかってはかられる。温度計には、たとえば純水の凝固点や沸点を特定できるようになっていて、それらを等間隔に区切った目盛りがしるされている。ある系の温度を知りたい場合には、温度計をその系に接触させることで容易にえることができる。ただしその系は温度計にくらべてじゅうぶん大きくなければならない。
| III. | 熱力学の第1法則 |
熱力学の第1法則は、やはり日常的な言葉である熱について定義をしている。
温度のことなる2つの物体を接触させたとき、2つの物体はやがて同じ温度になる。第1法則はこの過程を、温度の高い物体から低い物体へ、熱というエネルギーの一形態が移動するためであると考える。
熱は機械的な仕事に変換したり、たくわえたりすることができるが、物質ではない。熱は仕事やエネルギーと同じくジュールを単位として測定する。
熱力学の第1法則は、エネルギー保存則である。エネルギーは無から生みだされたりなくなったりはせず、したがって系に移動した熱と系に対してなされた仕事との和は、系の内部エネルギーの増加をもたらす。熱も仕事も、系が相互にエネルギーをやりとりしている機構なのである。ただし、のちに明らかになった質量とエネルギーの同等性は、ここでは考慮されていない。
機械ではエネルギーが仕事に変換される。エネルギーなしに仕事をする機械はない。エネルギーなしに永久運動をする仮想の機械を第1種永久機関とよぶが、エネルギー保存則ではそのような機械の可能性をみとめない。熱力学の第1法則からも、第1種永久機関は不可能である。→エントロピーの「永久機関の不可能性」
| IV. | 熱力学の第2法則 |
熱力学の第2法則は、エントロピーという性質についての定義をしている。エントロピーとは、ある系がどのくらい平衡に近いかをいう尺度であると考えることができる。あるいは、系の無秩序さの尺度であると考えてもよい。第2法則は孤立した系のエントロピー、つまり無秩序さはけっして減少することはないとのべている。
孤立した系が最大エントロピーを達成すると、その系はもはや変化をしない。つまり平衡に達する。自然は無秩序、つまりカオスをこのむかのようにみえる。第2法則によって、仕事がおこなわれなければ熱を温度の低い領域から高い領域に移動させることはできない。したがって第2法則は、第2種永久機関が存在しないことをのべる法則であるともいわれる。
| V. | 熱力学サイクル |
工学であつかわれるすべての重要な熱力学の関係は、熱力学の第1、第2法則からみちびきだされる。熱力学の過程を論じる有用な方法のひとつは、サイクルに関するものである。サイクルとは、ある多数回の状態変化をへた後、元の系の状態にもどるような過程であり、熱力学変数に関する値は系の状態の移り変わりにより変化してゆく。完全なサイクルでは、系の内部エネルギーはこれら熱力学変数のみにより記述され変化することはない。したがって系に移送された全熱量は、系がした全仕事に等しい。
理想的なサイクルは完璧に効率的な熱機関、つまりすべての熱エネルギーが力学的エネルギーに転換される機関によりなされる。19世紀のフランスの科学者カルノーは基礎的な熱機関のサイクルを考え、そのような理想化された熱機関は存在しないことをしめした。どんなにすぐれた熱機関でも、廃熱として熱を排出しなければならない。熱力学の第2法則は熱機関の効率の上限をさだめる。その上限はかならず100%以下であり、現実の熱機関の効率はカルノーサイクルによる効率をこえることはない。
| VI. | 熱力学の第3法則 |
第2法則は、絶対零度をふくめて絶対温度目盛りがありうることをしめしている。しかし、熱力学の第3法則は、有限回の手順では絶対零度は達成できないことをのべたものである。つまり絶対零度とは、かぎりなく近づくことはできるがけっして到達できない温度をいう。また、絶対零度のときエントロピーの値は0であるとさだめている。
| VII. | 熱力学の微視的な基礎づけ |
すべての物質が分子により構成されているという認識により、熱力学の微視的な基礎づけがなされてきた。物質中の分子はそれぞれ独立に速度や運動量をもっている。そのような熱力学的な系は、これら個々の分子の運動を統計的に考えることにより決定される(→ 統計学)。少なくとも原理的には、個々の分子の運動方程式をみちびきだし解くことで、それら分子の統計的な振舞いがえられるはずである。この意味からすると熱力学とは、たんに力学法則の微視的な系への応用であると考えられる。
普通のサイズ、たとえば人間ぐらいの大きさの物体には、約1024個の膨大な数の分子がふくまれている。分子は完全な球であると仮定すると、個々の分子の振舞いを記述するためには、位置をあらわす3つの変数、さらに速度をあらわす3つの変数が必要である。しかし、1024個もの分子の動きをコンピューターで計算するのは、最新の超大型コンピューターをもちいたとしても、とうてい不可能である。そのような膨大な量の情報はほとんど役にたたないし、それほど重要でもない。
分子全体の平均的な運動をみちびきだし、系の全体的な特徴をもとめる統計学的な手法が考案された。この方法により記述される系の全体的な特徴は、巨視的な熱力学変数の値と正確に一致する。このように分子の全体的な運動を統計的に解いて、系の巨視的な振舞いをもとめる学問を統計力学とよび、巨視的な熱力学系と微視的な力学系とをむすびつけている。