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| I. | プロローグ |
沸点のことなる液体の混合物や、溶媒に固体が溶解している溶液に熱をくわえ、揮発しやすい成分をとりだす方法。とりだそうとする液体は気化させてから、冷却してふたたび液化させて液体成分の精製分離や固体の除去をおこなう。
液体の混合物から成分を分離する蒸留をとくに分留、あるいは分別蒸留という。さらに石炭や木材のような固体を密閉容器にいれて熱し、熱分解による生成物を回収する操作は乾留とよばれる。
蒸発や乾燥の場合の目的は、固体など沸点の高い成分をえることにあり、より低沸点の成分(水であることが多い)がとりのぞかれる。これに対して蒸留の主目的は、気化する成分を高純度にすることにある。
| II. | 蒸留による成分の分離 |
2つの成分に大きな沸点の差があれば、1回の蒸留で完全に分離することができる。たとえば、4%の固体成分(ほとんどが塩化ナトリウムである)がとけている海水の場合には、これを加熱して沸騰させ水を水蒸気にし、液化して回収すれば、容易に蒸留水がえられる。この蒸留水は、ふつうの目的に使用する場合には、ほぼ純粋な水(→ 超純水)とみなしてかまわないが、厳密には、溶解した気体や蒸留につかった装置からの成分などの不純物をふくんでいる。さらに蒸留水は吸着力(→ 吸着)があるので、二酸化炭素などを空気から吸着する。
液体混合物の各成分の沸点の差が小さい場合には、1回の蒸留では完全に分離することができない。このよい例が、沸点が100°Cの水と、沸点が78.3°Cのエタノール(エチルアルコール)の分離である。この2つの液体成分からなる混合物を沸騰させると、その蒸気にふくまれるエタノールの濃度は、液体の場合よりも大きくなり、水の濃度は小さくなる。しかし、エタノールはまだ純粋にはなっていない。
10%エタノール溶液(発酵でえられるアルコール濃度に相当する)を濃縮して50%エタノール溶液(ひじょうに強いウィスキーのアルコール濃度に相当する)にするためには、さらに1~2回蒸留をくりかえさなければならない。濃度95%の工業用アルコールをえるためには、さらに多く蒸留をくりかえす必要がある。
| III. | 蒸留の原理 |
2つの成分からなる溶液を加熱、沸騰させて生じる蒸気が液相と平衡状態にあるとき、その組成は、液相の組成よりも低沸点成分に富んでいる。したがって、この蒸気を凝縮させると、もとの液よりも低沸点成分に富んだ液がえられる。これが蒸留の基本的な原理である。
| 1. | 共沸混合物 |
蒸留がすすむとともに液相の組成がかわり、沸点が連続的に変化する。しかし、ある種の溶液では、液相の組成と平衡状態にある蒸気相の組成がある時点で同じになることがある。このような組成の溶液では、蒸留操作をおこなっても同じ組成の蒸気しかえられないため、それぞれの成分に完全に分離することができない。このような組成の溶液を共沸混合物という。エタノールの水溶液は、1気圧のもとでは濃度が96%になると共沸混合物になる。このときの沸点は78.15°Cである。したがって、ふつうの蒸留操作を何度くりかえしても、エタノールをこれ以上の濃度にすることはできない。100%の(無水の)エタノールをえるには、共沸蒸留(→ 分留)によるか、アルコールと化学反応しない石灰や無水硫酸銅(→ 硫酸銅)などの脱水剤を利用して、結晶の中に水分子を吸着して除去する。
| 2. | ラウールの法則 |
たがいにとけあう2つの成分からなる、もっとも単純な混合物の場合、それぞれの成分の揮発度は、他の成分には影響されない。このような2成分の等量混合物の沸点は、それぞれの成分(純粋な物質として)の沸点の中間にあり、1回の蒸留によって達成される分離の程度は、その温度での各成分の蒸気圧あるいは揮発度だけできまる。
この関係は、フランスの化学者フランソワ・マリー・ラウール(1830~1901)によって実験的にみいだされたもので、ラウールの法則とよばれる。
しかしラウールの法則は、たとえばベンゼンとトルエンのように、化学構造がひじょうによく似た液体の混合物にのみあてはまるもので、多くの場合は、この法則から大きくずれる。希薄なエタノール水溶液中のエタノールの揮発度は、ラウールの法則で予測される揮発度の数倍となる。きわめて濃度が高いエタノール溶液の場合には、このずれはさらに大きくなる。
| IV. | 蒸留装置 |
工業的には、気体と液体を接触させる塔型の装置である蒸留塔が広く利用される。原料溶液を底部で熱し、塔頂からでてきた蒸気をコンデンサー(凝縮器)で凝縮させる。凝縮によってえられた液(留出液という)をふたたび塔頂にもどす(還流という)ようにした蒸留塔を、精留塔という。さらに塔の中間部から原料溶液を連続的に供給するようにして効率を高めた蒸留塔を連続蒸留塔という。材質としては、工業用にはおもにステンレス鋼がもちいられるが、腐食性(→ 腐食)が問題になるような場合にはガラスなどももちいられる。実験室用はふつうガラスである。ウィスキーの蒸留には銅製あるいはガラス製のポットスチルというハクチョウが首をのばしたような独特の形をした蒸留器がもちいられる。
なお、蒸留器といった場合、狭義には液体を加熱するために蒸留塔の底部に設置される蒸留缶(蒸留釜あるいはスチルともいう)をさすが、広義には蒸留塔、コンデンサー、留出液を回収する装置などをもふくめ、蒸留操作にもちいられる装置全体をさすことが多い。
| V. | 蒸留の種類 |
蒸留にはさまざまな方法がある。操作中の圧力によって、高圧蒸留、減圧蒸留、分子蒸留。蒸留する成分によって単蒸留、水蒸気蒸留、共沸蒸留。蒸留装置の操業方法によって連続蒸留と回分蒸留などに分類される。
| 1. | 回分蒸留と連続蒸留 |
回分蒸留というのは、一度原料の液を蒸留装置にいれて、目的の濃度の蒸留液ができたところで操作を終了する方法で、蒸留酒(→ アルコール飲料)の製造などでつかわれる。これに対して連続蒸留は、原料を連続して蒸留装置にいれて、低沸点成分と高沸点になった混合物とをぬきとりながら操業する。
| 2. | 水蒸気蒸留 |
蒸留すべき液体に水蒸気をふきこみながらおこなう蒸留。たがいに溶解しない2つの物質の混合物の蒸気圧は、それぞれの成分の蒸気圧の和にひとしい。したがって、水に溶解しない物質に水蒸気をふきこみながら加熱すると、蒸留すべき物質の蒸気圧と水の蒸気圧との和が大気圧にひとしくなった温度で沸騰がおこるため、単独で蒸留する場合よりも低い温度で蒸留できる。この原理は、ふつうの蒸留法では温度が高すぎて分解してしまうような物質や、高沸点物質の蒸留に利用される。
| 3. | 減圧蒸留 |
減圧蒸留法は、低い圧力のもとでは物質の沸点が低下することを利用した蒸留法である。約184°Cの沸点をもつアニリンは、蒸留器の中の空気を93%除去して蒸留すると、100°Cで蒸留できる。この蒸留法は水蒸気蒸留と同様、高沸点物質や熱に不安定な物質に有効な方法であるが、容器に高い気密性が必要だったり、真空ポンプ(→ 真空技術)などの付帯設備のため、水蒸気蒸留よりもいくぶん高価である。
| 4. | 分子蒸留 |
真空度が高くなればなるほど蒸留温度が低くなる。高真空下でおこなわれる蒸留を分子蒸留といい、熱によって分解したり、重合反応(→ 重合)をおこす物質につかわれる。工業的にはビタミンAの精製などに利用される。蒸発面(液面)と凝縮面(蒸発した蒸気が冷却されて凝縮する面)との間隔が数センチとせまいので、蒸発した分子のほとんどが直接凝縮面に到達し、原料の損失がひじょうに少なくなる。
| 5. | 昇華による分離 |
固体物質が、液相を経由することなく直接気化して気体になったり、また逆に気体から直接固体になる現象を昇華という。昇華操作では、固体物質によって装置に目詰まりが生じないようとくに注意する必要があるが、この点をのぞけば、おもな点は蒸留操作とかわらない。揮発性物質をふくむ不揮発性物質や、不揮発性物質にふくまれる揮発性物質の分離、精製に古くから利用されている。ヨウ素は昇華操作で精製される典型的な例である。