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三角法と三角関数
I. プロローグ

三角形の辺と角との関係や、三角関数の性質とその応用などをあつかう、数学の分野。平面上の図形を三角形をもとにあつかう平面三角法と、球面上の三角形をあつかう球面三角法との2つにわかれる。

三角法が応用されたのは、航法や測量、天文学などであった。直接はかることのできない太陽と地球との距離や、大きな湖の対岸までの距離などをもとめることを、おもな課題とした。歴史的には、天文学上の応用からはじまったので、平面三角法よりも球面三角法のほうが古い。その後、応用範囲はひろがり、現代では物理学や化学・工学のほとんどすべての分野でつかわれている。とくに、音や橋、建物などの振動、さらには交流電流といった周期的な現象の研究に、三角関数はなくてはならない数学的手段となっている。

II. 平面三角法

直接はかれないような距離を、三角測量によって、実測可能な角度や長さからもとめる方法である。たがいに相似な平面図形では、それぞれの図形の各部分の長さの比が同じにたもたれるという性質を利用している。こういう比の大きさは角度だけできまり、角度さえわかれば知ることができる。そこで、一定の比の値を角度の関数として定義し、数表をつくっておけば役だつ。これが、三角関数や三角関数表である。

1. 角度の大きさと単位

三角法や三角関数を考えるときは、動径の回転によって定義される角度をつかう(図1A、1B、1C)。動径とは点Oを中心として回転する半直線のことで、はじめはOAの位置にあるとする。これが回転してOBの位置までくることによって、ÐAOBがつくられたと考え、その回転の大きさによって角度をはかるのである。ただし、時計の針と反対向きに回転するときは正の大きさの角度とし、時計の針と同じ向きに回転するときは負の角度とする。2つの角度がひとしいということは、動径が同じ位置にくることにくわえ、回転の大きさが向きもふくめてひとしいことであると定義する。

角度の単位を定義するには、ふつう図2のように角の頂点を中心とする円をえがき、角に対応する円弧の長さを考える。

弧の長さsが円周の長さC‚つまりs = ‚ Cならば、OAとOBは垂直であり、その角の大きさを直角という。もしs = y Cならば、3点A、O、Bは一直線上にならぶ。s = 1/360 Cのときに、その角の大きさを1度(1°)という。s = Cならば、弧の長さは円の半径にひとしくなる。そのときの角の大きさを、1ラジアンという。これらの定義から、2直角 = 180° = pラジアンである(円周率)。

1度(1°)を60等分したものを1分(1')、1分を60等分したものを1秒(1'')という。さらに細かい角度については、秒に小数部分をつけてあらわす。つまり、時計と同じで、秒までは60進法で、それ以下は10進法になる。ラジアンを単位として角をはかる方法を弧度法といい、1ラジアン未満の角度については、やはり小数をつかってあらわす。ラジアンが単位であることをはっきりさせる目的で何ラジアンと書くこともあるが、数字だけで単位名をつけずにあらわすことも多い。そこで、たとえば、

となるが、右端の数字はラジアン単位で角度をあらわしたものである。また、秒の小数部分については、42.14''のかわりに42''.14と書くこともある。

三角法や三角関数では、角度をあらわすのにギリシャ文字θ(シータ)がよくつかわれる。角θをラジアンの単位(弧度法)であらわしてあれば、弧の長さsは、公式s = r θ(rは円の半径)でもとめられる。また、角θが度を単位としてあらわされていれば、

である。

2. 三角関数

三角関数は、平面図形の実際の大きさとは無関係に、角の大きさだけできまる特定の比を、角度の関数としてあらわしたものである。三角関数の値は、角度とともに変化してゆくから、回転する動径をもとに三角関数を定義しておくと便利である。

図3のように、回転する動径上の点Pが、原点からの距離rを一定にたもってうごいてゆくものとする。角の頂点を原点とし、図の矢印であらわされた回転の大きさを角θとする。つまり、x軸の正の方向を最初の位置(始線)として、動径が現在の位置までくる回転の大きさが、角θである。そして、点Pの座標を(x, y)とするとき、6種類の三角関数が、次のように定義される。

定義式の右辺の比の値は、動径上の点Pが原点からどれだけはなれているかには無関係で、角の大きさだけできまる。つまり、三角関数の値は角θの関数である。

x座標やy座標は、図3でI~IVと表示された領域(象限という)のどこに点Pがあるかによって、正負の符号がちがってくることに注意しておこう。これに応じて、三角関数の値も符号がかわってくる。

また、点Pがy軸上にあるときはx = 0であり、x軸上にあるときはy = 0である。数学では、0による割り算はみとめられていないから、90°とか270°や -90°のような角については、正接(tan)や正割(sec)の値は定義されない。同様にして、0°とか180°や -180°のような角については、余接(cot)や余割(cosec)の値は定義されない。

しかし、rは0にならないから、すべての角に対して正弦(sin)や余弦(cos)の値はつねに存在する。ピタゴラスの定理により、 であり(幾何学)、rの値はxyの絶対値より大きいかひとしい。したがって、sin θとcos θは-1から1までの間の値をとる。tan θとcot θは、すべての実数値をとる。sec θとcosec θは、1以上または -1以下の値をとる。

角θに2pラジアンまたは360°をくわえても、xyはかわらないから、三角関数の値もかわらない。たとえば、

sin(θ + 2p) = sin θ

である。同様な式が、ほかの三角関数についても成立する。

また、定義式から、3つの三角関数は、次のように、他の3つの三角関数の逆数になっていることがわかる。

図4のように直角三角形の鋭角の1つをθとすると、上であたえた三角関数の定義を、これにあてはめてつかうことができる。頂点Aを図3の原点にとり、ACをx軸の正方向にとり、Bを点Pとすれば、c = AB = r, a = CB = y, b = AC = x。したがって、たとえばsin θ = y/r = a/cであり、同様にして次の式が成立する。

いくつかの特別な角について、その三角関数の値は容易にもとめられる。たとえば、図4の特別な場合として、AC = CBの直角二等辺三角形になっているとすれば、鋭角は45°であるから、


となる。

さまざまな角度をもつ三角形を、定規、コンパス、分度器をつかって書き、xyrを測定して比の値を計算すれば、三角関数の値は近似的にもとめることができる。しかし、微分積分学(微積分)からみちびかれる計算式をつかえば、どんな角度に対する三角関数も、かぎりなく正確に計算できることが知られている。現在では、これを利用した三角関数計算用のプログラムが、スプレッドシート型のアプリケーションで用意され、どんなパソコンでもつかえる。関数電卓とよばれるものもあり、以前のように数表や計算尺は不要になった。

3. 三角関数の公式

三角関数について、次のような公式がなりたつ。

ここで、θやφはどんな角でもよい。

どんな角θに対するsin θやcos θでも、公式Vをくりかえしつかえば、0°から90°までの正弦(sin)と余弦(cos)であらわせる。また、公式Iと公式IIをつかうと、tan θ、cot θ、sec θ、cosec θの値はすべて、sin θとcos θの値からもとめられる。したがって、三角関数の値をもとめるためには、0°から90°までの角θについてsin θとcos θの値の表があればよい。三角関数表とよばれる数表には、ふつうこれがのっている。

三角関数の値の変化は、図「三角関数のグラフ」であらわされている。この曲線をみると、三角関数は明らかに周期関数であることがわかる。つまり、一定の間隔(周期)をおいて、関数の値はまったく同じ変化をくりかえす。正弦(sin)、余弦(cos)、正割(sec)、余割(cosec)の各三角関数の周期は360°、または2pラジアンであり、正接関数(tan)と余接関数(cot)の周期は180°、またはpラジアンである。

三角関数について成立するいろいろな関係式が、これらの基本的な公式からみちびかれ、三角法の研究や応用にもちいられる。

4. 三角関数の逆関数

「θの正弦の値はyである」(y = sin θ)というとき、同じことを逆に「正弦の値がyであるような角はθである」といいあらわすことができる。yによって角θがきまると考えるのである。つまり、逆にθをyの関数と考えることができるわけで、これを逆正弦関数とよぶ。逆正弦関数は、記号θ = arcsin yまたはθ = sin-1yであらわす。逆正弦関数は、正弦関数の逆関数である。ほかの三角関数についても同様にして、arccos y, arctan y, arccot y, arcsec y, arccosec yという逆三角関数が定義できる。

ただし、同じ三角関数の値をとる角は1つだけとはかぎらない。y = sin θ、またはθ = arcsin yについて、yの1つの値に対応するθの値は無数にある。たとえば、sin30° = sin150° = sin(30° + 360°) = sin(150° + 360°)= ... = y である。つまり、θ = arcsin y に対して、θ = 30° + 360° × nまたはθ = 150° + 360° × n である。nはどんな整数でもいい。

そこで、yに対する逆正弦関数の値θがただ1つきまるようにするため、θを-90°から90°までの範囲にかぎり、arcsinのかわりにArcsinという記号をつかって、θ = Arcsin yとあらわす。このθを、逆正弦関数の主値という。たとえば、30° = Arcsin 1/2である。ほかの逆三角関数についても、同様にただ1つの値(主値)がきまるように、θがとる値の範囲を

とし、それぞれ記号で、Arccos y , Arctan y , Arccot y ,Arcsec y , Arccosec yとあらわす。

5. 三角形

三角法は実用的には、直接にははかれないような距離をもとめたりするのにつかわれる。もとめる距離を1辺の長さとするような三角形を考え、その三角形の他の辺や角を測定すれば、次の公式をつかって問題を解くことができる。

三角形の3つの角の大きさをA, B, C、それらの角の対辺の長さをそれぞれa, b, cであらわすと、次の式が成立する。

余弦定理と正接定理については、A, B, Ca, b, cの記号を適当にいれかえると、別のかたちの式がえられる。たとえば、

b² = c² + a² - 2ac cosB

である。

上の3つの定理をつかうと、さまざまな問題を解くことができる。つまり、三角形の1辺とその両端の角、2辺とそれにはさまれる角、2辺とそれにむかいあう角の一方、この3つのどれかがわかれば、残りの辺の長さや角の大きさを決定することができる。

III. 球面三角法

球面三角法は、球面上の3つの大円の弧で囲まれた球面上の図形である球面三角形(三角形)についてあつかい、おもに航法や測地法や天文学などに応用される。平面上の三角形と同様に、球面三角形も、3つの辺abcと3つの頂点の角ABCの6個の要素をもつ。球面上の大円の弧の長さは中心角ではかられるから、球面三角形の3辺は長さのかわりに角度としてあつかってもよい。三角形の6つの要素のうち、いずれかの3要素があたえられたとき、要素どうしの間になりたつ関係式をつかって残りの要素をもとめ、三角形をきめることができる。このことを、三角形を解くという。

平面上の直角三角形と同様に、直角球面三角形(象限弧球面三角形ともいう)では、2つの要素だけですべてきまってしまう。たとえば、C = 90°の球面直角三角形でcAがあたえられたとき、他の要素は、次の公式でもとめられる。

sin a = sin c · sin A



tan b = tan c · cos A



cot B = cos c · tan A

別の2つの要素があたえられた場合にも、ネーピアの円形法則(円分法則)によって、公式がすぐにえられる。これは、abAの余角(90°- A)、cの余角(90°- c)、Bの余角(90°- B)の5つを円形にならべて考えるもので、どの要素についても、残りの4つを隣接する2つと向こう側の2つにわけることで、簡単な公式がえられる。つまり、どの要素の正弦の値も、それと隣接する2要素の正接の値の積と等しく、また向こう側2つの要素の余弦の値の積に等しい。たとえば、

sin(90°- c) = tan(90°- A) · tan(90°- B)



= cosA · cosB

一般の球面三角形では、簡単な規則はないが、それぞれの場合に応じた公式がある。

たとえば、球面三角形ABCにおいて、abAがあたえられたとき、残りの要素をもとめる公式は、

である。

平面上の三角形と同様に球面三角形でも、3つの要素をまったく任意にあたえると、三角形の条件をみたさないこともあり、また三角形が1通りにはきまらないこともある。特別な場合には、その扱いはひじょうにやっかいである。というのは、すべての直線(球面上では大円が直線にあたる)は他の直線とかならず2点でまじわるので、より多くの場合を考えなければならないからである。球面多角形については、対角線をひいていくつかの球面三角形にわけ、それぞれの三角形の3つの要素があたえられたり、計算できたりすれば、球面多角形のすべての要素がもとめられる。

球面三角法は、立体投影法の理論や測地学でひじょうに重要である。また、天文学の計算の基礎にもなっている。いわゆる天文三角形を解くことにより、観測地点の緯度・経度や観測時刻、星の位置などをもとめることができる。

IV. 歴史
1. 古代の三角法

三角法の歴史は、エジプトやバビロニアや中国の古い数学にさかのぼる。バビロニアでは、60進法をつかって、角度を度・分・秒ではかることがおこなわれた。紀元前2世紀、ギリシャの天文学者ヒッパルコスが、三角形をしらべるため、三角関数の表をつくり、三角法の創始者といわれている。彼がつくったのは、ある半径rの円について、7.5°刻みで180°まで、それぞれの角に対する弦の長さをしめした表で、正弦関数表に相当する。300年後の天文学者プトレマイオスは、ヘレニズム時代のギリシャ人がバビロニアの60進法をもちいていたこともあって、r = 60とした表をつくった(数学)。

2. プトレマイオスとその時代

2世紀に活躍したプトレマイオスの天文学書「アルマゲスト」には、30秒刻みで0°から180°までの弦の表が小数点以下第5位まで正確に書かれている。そこにはまた、弦の表の作成方法に関する説明や、三角形の既知の量から未知の量をもとめるために表をつかう方法がのべられている。プトレマイオスの本には、今日メネラオスの定理として知られている、球面三角形を解くための方法ものべられている。何世紀もの間、彼の三角法は天文学の基礎になった。しかし、プトレマイオスとほぼ同時代に、インドの天文学者は、ギリシャの弦の表のかわりに正弦関数にもとづいた三角法を発展させた。正弦関数といっても現代のものとはちがい、一定の斜辺をもつ直角三角形について、あたえられた角度によってきまる対辺の長さそのものをあらわしたもので、比の値ではなかった。インドでは、この斜辺の長さにも、いろいろな値をもちいた。

3. イスラムでの発展

8世紀後半、イスラムの天文学者はギリシャとインドの伝統をともにうけついだが、もっぱらつかわれたのはインドの正弦関数のほうであった。10世紀末までには、正弦関数のほかの5種類の三角関数もえられ、平面や球面の三角法における多くの基本的な定理が証明された。r = 60のかわりにr = 1もつかわれるようになり、今日の三角関数と同じ値になった。イスラムの数学者は、球面三角形を考えるのに極三角形ももちいた。これらの発見は、天文学のためにつかわれるばかりでなく、天文時をはかったり、イスラム教の教義にしたがって日に5回の礼拝をするとき、聖地メッカの方向を確認するのにも役だてられた。イスラムの科学者がつくった数表はひじょうに正確で、たとえば正弦と正接の表は†度刻みで作られていて、小数点以下第9位まで正確だった。13世紀の天文学者アットゥーシーは、「天文要覧」をのこし、三角法をはじめて独立した数学としてあつかった。

4. 中世ヨーロッパでの改良

ヨーロッパには12世紀初め、アラビア語の天文学書の翻訳で三角法がつたえられた。ドイツの天文学者で数学者のレギオモンタヌスことヨハン・ミュラーが、15世紀にヨーロッパで最初の三角法の書物をだした。16世紀には、ドイツの天文学者レティクスことゲオルゲス・ヨアヒムが、三角関数を長さとしてではなく比の値として定義する、今日の概念を導入した。フランスの数学者フランソワ・ビエトは、球面三角法に極三角形を導入したり、正弦関数や余弦関数の倍角公式などもしめした。

17世紀初めに対数を発明したスコットランドの数学者ジョン・ネーピアは、三角法の計算にも大きな貢献をした。彼は、直角球面三角形を解くための10個の公式をみいだし、おぼえやすくまとめ、一般の球面三角形を解くためのネーピアの類推とよばれる方法もつくった。

5. 微積分と三角関数

ネーピアの対数に関する本の出版からほぼ半世紀して、ニュートンが微積分を発明した。この業績は、いろいろな関数をxのべき乗の無限級数であらわす方法をニュートンがみいだしたことが、ひとつの基礎となっている。彼は、sin xやcos xやtan xを無限級数であらわした。微積分が発明されると、三角関数は解析学にとりいれられ、純粋数学と応用数学の両方で重要な役割をはたすようになった。

6. 複素数による表現

18世紀になってスイス生まれの数学者オイラーは、複素数によって三角関数を定義した(数)。このことで、三角法のすべての問題は複素数の数多くの応用のひとつになり、三角法の基本法則は、複素数の計算から簡単にみちびかれる結果であることがしめされた。