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航法
I. プロローグ

ナビゲーションnavigationともいう。本来は、長距離の航海から発達した技術で、船、航空機、誘導ミサイルなどがある地点から別の地点に移動するとき、自分の位置を測定し、確実かつ迅速に移動経路をしめす技術(飛行機:航空管制:誘導ミサイル)。最近は、自動車でもカーナビゲーションシステムが利用されている。航法をおこなうためには、航法のくわしい知識だけでなく、経験と判断力もかなり必要である。

航法には、おもに次の4つがある。(1)コースと速度だけから演繹的な計算によって船のおおよその位置を推定する推測航法。(2)地形的な目印や航路標識をそのつど確認し、測深によって船をみちびく地文航法。(3)天体の観測によって地球表面における位置をもとめる天測航法(天文航法ともいう)。(4)無線や電子機器を利用した電波航法。このうち電波航法が、今日ではもっとも重要で先端のシステムである。

船を操縦するとき基本になるのは、位置と方位をもとめ、ある地点から別の地点に移動する間の速度、距離、および時間をもとめることである。位置は、緯度・経度などの一般的な座標によって地球上の点として確認できる。方位は、距離に関係なく定義したある地点に対する別の地点の位置で、ふつう真北方向からの角度でしめされる。速度は、1時間当たりの海里(1ノット=1.853km/時)でしめされ、距離は、方位に無関係な2地点間の空間的な長さである。

II. 地図や海図の図法

航海の計画と最終的な結果は、地図や海図に記入される(地図)。地図には、ほぼ球面になった地球の表面が、緯度と経度の座標と、地表や海面下の地形の特徴を重ねあわせた形であらわされている。海図は、位置、方位および距離の測定値と、航行者に必要な情報をしめしたものである。地球の球面を歪(ひず)みなく平面に表現できないため、航行者の用途にあわせた図法が開発された。それぞれの図法には長所と短所があり、航行者の必要をみたすように考えられている。

地図でもっとも広く利用されているのは、メルカトル図法である。この名は、発明者の数学者・地理学者のG.メルカトルにちなんでつけられた。この地図は、地球の球面を、赤道で地球表面に外接する円筒上に投影し、平面にしたものである。北を上にして円筒を平らにしたとき、子午線すなわち経線は、縦方向の等間隔の線としてあらわされ、緯線は横方向の平行な線としてあらわされる。子午線に対する方位のずれを少なくするように、平行な緯線が、緯度が高くなるにつれて間隔が大きくなるように作図されている。メルカトル図法は、歪みは大きいが、経路、方位、および距離が直線であらわされ、直接測定することができる。

航行者はふつう、2地点間の最短経路をみつけようとする。これは、大圏として知られるコースになる。地球表面の2地点間の大圏は、2地点と中心をふくむ平面が球面と交差するときの弧で、球面上の最短距離である。大圏コースは、心射図から直接もとめることができるが、コースをかえながら航行する船には適用できないため、ふつうは大圏に近いいくつかの弦をつなぐ。これらの弦は、一般にメルカトル式地図に記入される。

世界の航行できる水域の大部分は、主要海洋国家の水路測量当局によって正確に調査され、航行者は、高い信頼性の海図をつかうことができる。

さまざまな国の水路測量当局が、航行者を支援する航海暦や沿岸水路誌を発行している。沿岸水路誌は、沿岸水域、港の設備、航路標識、風、潮汐、潮流、航海危険箇所、制限水域への接近と進入の指示、および海図に表現できない詳細な情報をふくむ本である。

III. 航法の歴史

もっとも原始的な航法は、肉眼で沿岸の地形を確認しながら航行する方法だった。やがて船舶が大型化し、沿岸の地形が確認できない沖まで航海するようになると、天測航法が開発される。

1. 古代中国の航法

中国では、紀元前1000年ごろから、磁石(永久磁石)をもちいて、方位を知る道具があったといわれる。

後漢の時代の天文学者・数学者の張衡(78~139)は、星の配置を模型にした渾天儀(こんてんぎ)、指南車という方角を測定する機械装置、記里鼓車(きりこしゃ)という距離測定器を開発し、天子の外出につかっていたという。同じ時代に、木でつくった魚の中に磁石をいれ、水をはった器にうかべた、方位測定器もあったと記録されている。コンパス

2. アラビアでの発展

10世紀に入るとアラビア人は、中国からつたわった磁石と、アル・カマルという緯度測定器を利用するようになった。これは、中心に孔をあけて、緯度に対応する目盛りのある紐をとおした板で、紐の目盛りだけ観測者の目からはなし、板の上端が北極星に、下端が水平線に一致すると、目的の緯度に到着したことが確認できる。アル・カマルは、発展して、ヤコブの杖(つえ)という木製の道具になる。

3. 大航海時代と航法

15世紀にはじまる大航海時代は、航法にも大きな技術革新をもたらした。アラビアからつたわったアル・カマルは、クロススタフとよばれる道具に発展し、羅針盤もつかわれるようになる。ポルトガルのエンリケ航海王は、造船、測地、操船の研究と教育の機関を充実させて、インド洋への新航路の開発につとめた。帆船

3.A. 緯度の測定器

アル・カマルから、新しく開発されたアストロラーベ(測角器)という道具がつかわれるようになった。これは、大きな円板に目盛りをつけたもので、北極星などの天体と水平線から緯度を測定する。やがて、円を4分の1にして、錘(おもり)をつけたコードランド(四分儀)が発明され、さらに6分の1円にして、水平鏡と動鏡という2枚の鏡をつけたセクスタント(六分儀)が開発され、測定精度が向上した。

高緯度地方(ヨーロッパ北部)にすむバイキングは、夏の間は、白夜で星を航法につかえないので、日時計を緯度の測定に利用した。

3.B. 経度の測定

18世紀には、夜空の星を時計の目盛り板とし、月を針にみたてた月距法という経度の測定方法が生みだされた。イギリスの有名な航海者クックは、月距法と金星の太陽面通過による観測から、タヒチ島の位置を経度にして2.5分、距離にして4.6kmの精度で測定している。

経度測定の精度をあげるには、航海につかえる高精度の時計を開発する必要があり、18世紀初め、イギリス政府は、2カ月間の誤差が2分以内なら1万ポンド、その2倍の精度なら2万ポンドという賞金をだし、時計の高精度化を競争させた。1728~59年にかけて大工のハリソンは、4種類のクロノメーターを製作したが、最後のものは81日間で誤差が5.1秒という、当時としては画期的なものだった。この装置は、調速機構に温度補正をくみこんで実現された。

3.C. 距離と速度の測定

昔は、航行の速度は、船から結び目(結び)のついたひもをくくりつけた木片をなげ、一定時間にくりだしたひもの長さで計測した。今日でも、測程器(距離を計測する機器)のことをログ(log)というが、これは木片に由来している。また、船舶の航行速度はノットという単位で表示するが、ノットというのは、結び目のことである。

4. 航法の高精度化

19世紀になって、工作機械が発展すると、プロペラの回転速度から速度と距離を計測する、曳航(えいこう)測程器(パテントログ)が発明された。また、光学機器や計測器の精度も飛躍的に向上していった。

5. 航法発展の背景

大航海時代を通じて航法が発展した背景には、植民地主義がある。ヨーロッパの人間にとって、未知の土地を発見したときは、たとえ先住民がいても、第1発見者が位置の計測をおこない、現地にパドランという標識をたて、地図に記入してその土地の領有を宣言した。それが国家間で公知の事実となれば、領有が承認された。こうした国家間の取り決めのため、新発見の土地は、位置決定を正確におこなう必要があった。

6. 航行機器

航行を容易にするために、たくさんの機器がつかわれている。航行用の機器で位置を決定し、方位・距離・速度・水深を測定し、海図の記入をたすけ、天候を観測する。必要な情報をえるために、同時にさまざまな機器をくみあわせて利用することもある。

6.A. 磁気コンパス

磁気コンパスは、船でもっとも昔からつかわれた機器のひとつである(コンパス)。大型船では、ジャイロコンパスがつかわれるようになったが、磁気コンパスは電気機械的な影響をうけないため、基本的な航行機器として現在も利用され、ほとんどの航海になくてはならない装置である。磁気コンパスは、地球の磁極の方向にあわせて、定針装置としてはたらく(地球)。

コンパスの針は、ほとんどの地点で地理的な北極とはことなる磁極の方向をさす。コンパスの針の方向と真北との角度の差を、偏差またはデクリネーションとよぶ。航行に便利なように、世界のさまざまな地域の偏差が測定されており、ひとしい偏差の地点をむすんだ線すなわち等偏角線と、任意の領域の偏差を表示した海図が用意されている。そのような海図では、コンパスが真北をさす偏差がゼロの線を無偏角線とよんでいる。

6.B. ジャイロコンパス

ジャイロコンパスは、方向基準としてジャイロスコープを利用したもので、地理的な真北をさす。ジャイロスコープは、高速で回転する質量の大きい物体が、直交する2つの環で支持されたもので、回転軸を3次元的に、どの方向にもむけられるものである。

ジャイロスコープには、真の方向をしめすための制御素子がそなわっている。マスター・ジャイロコンパスがしめす方向は、方位レピーター、操舵レピーター、レーダーレピーターなどの船のさまざまな装置で、もう1度測定される(レーダー)。

方位環は、方位角すなわち物体の方位を、北点からはかった方向でしめす重要な補助装置である。これは、目盛りのついたリングであり、コンパスやコンパスレピーターにあう方位目盛りをそなえている。陸上の目標物と天体の両方の方位をもとめるのに使用される。

6.C. 測程器

測程器は、船の速度または水上の移動距離、あるいはその両方をもとめるためにつかわれる。さまざまな型の測程器がつかわれており、単純な機械原理によるものと、高度な電気機械とがある。

6.D. 測深機

水深をはかるときは、測鉛や音響測深機がつかわれる。測鉛は、適当に印をつけたひものはしに鉛の錘をつけたもので、透明度が低い沿岸部や浅瀬でつかわれる。音響測深機は、音波や超音波信号(超音波)を出して、海底から反射してもどってくるまでの時間をはかり、水深をもとめる装置で、ほとんどの遠洋を航行する船に搭載されている。超音波科学:ソナー

6.E. 作図器具

船の海図台にふつうにある基本的な作図器具は、距離をはかるデバイダー、コンパス、プロッター、分度器などの一般的な製図器具である。

6.F. 天測航法装置

天測航法(天文航法)では、六分儀とクロノメーターがつかわれる。六分儀は、ある物体からの直接光と他の物体からの反射光を一致させ、2つの物体間の角度をはかる二重反射計器で、おもに水平線からの天体の高度をはかるためにつかわれる。

クロノメーターは、きわめて正確な時計である。これは一般に、ロンドンのグリニッジ天文台の標準時間にあわせてある。毎日の時刻が、さまざまな国の時計からの無線報時信号放送によって確認される。この時差によって海洋で緯度をもとめることができる。最新の船は、これらの装置のほかにも、いくつかの航行装置をつかっている(後述の「電波航法」を参照)。

7. 水先海域での航法

さまざまな状況で船を航行させるためには、地文航法がもっとも確実である。とくに、くわしい海図がない沿岸水域、あるいは悪天候や視界がかぎられた状態のもとで地文航法をおこなうには、細心の注意と正確さが要求される。外海よりも多くの船が航行する水先海面では、ほかの船との衝突をさけることに注意がむけられる。

7.A. 位置線

航法の基本概念は、船の一連の位置をしめす位置線である。位置線は、1本では船の正確な位置を決定することはできない。同時にあるいは経過時間を考慮してえがいた複数の位置線の交点をフィックス(位置決定)といい、これが実際の正確な位置である。水先海域では、航行者は常にそのような線の交点に到達するようにつとめる。この場合、フィックスは、あとで航行したり航路を決定するときの信頼できる道しるべとなる。

視覚的な操縦は、一般に、ジャイロコンパス・レピーターの上で方位環をつかって、確認できる海図上の目標物の方位をもとめる。次に、それらの方位を海図に記入して、船の位置を図にしめす。方位環のほか、レンジファインダーやレーダーをつかって方位と距離が同時にわかる場合は、目標物が1つでもフィックスをすることができる。

距離がわからず位置線が1つしかえられない場合は、航行者は、フィックスほど信頼できないが、推測航法での位置よりは信頼できる、推定位置にたよらなければならない。推定位置は、フィックスがわかるまで、航行中は常に注意していなければならない。

位置線は、次のいずれかの方法でもとめることができる。すなわち、2つの既知の固定された目標物が直線上にあり、船の位置をこの直線上のどこかにする方法。目視やレーダーでしらべた、目標物のコンパス方位による方法。海底の一連の測深による方法。2つの既知の目標物の間の角度を六分儀ではかる方法。船の警笛やサイレンなどの音波による方法。既知の固定された目標物からの無線発信を利用する方法。無線方向探知器の方位決定による方法。いくつかの電子システムのうちの1つから位置線をもとめる方法。天文学を利用する方法である。

7.B. 位置の決定

これらの位置線をきめる方法をどのようにくみあわせても、船の位置を決定することができる。フィックスは、方位の交わり、同一目標物の方位と距離、同じ時間における方位と測深、および水平六分儀の等頂角によってもとめることができる。また、ちがう時間にはかった目標物の信号から2つの方位を経過時間で調整しても、フィックスをもとめることができる。この方法は、ランニングフィックスという。

これらの図形的な方法のほかに、三桿(さんかん)分度器で水平角をはかり、船の位置をきめることもできる。この分度器は、角度の目盛りがついた円板の中心に1つの固定アームと2つの可動アームがついたものである。

海図上にある3つの正確に位置がわかる固定した目標物でできる水平角を分度器に設定し、3本のアームの延長線上に目標物がくるように、海図上で分度器を位置決めすると、その中心が船の位置になる。

航行の目標となる施設には、さまざまな形のブイや灯台、灯台船などがあり、昼間はおもに特徴のある形と色で確認でき、夜間は特徴のある光の点滅と色で確認することができる。このような援助設備がないときは、山の頂上や水タンク、教会の尖塔(せんとう)など、海図上の構造物で方位をもとめ、島や陸地を利用して三角法(三角法と三角関数)で方位をもとめなければならない。

7.C. 潮汐、潮流、および海流

実際の航行は、潮汐や海流の影響で複雑になる。これらの影響によって船が海図上のコースからはずれたり、速度がおそくなったりはやくなったりする。推測位置とフィックスを比較することによって、これらの影響がはっきりし、航行者が影響を予測して調整できるようになる。海洋:潮汐:風

8. 天測航法(天文航法)

外海でもっとも一般的につかわれているのは、大昔から知られている星や星座を利用する天測航法(天文航法)である(天文学:星座)。天測航法を利用すると、標識がない海でも数千キロにわたって航海することができるが、雲、霧、雨、雪、もや、霞(かすみ)などで視界が悪化すると、航路を決定する天体観測ができないという大きな欠点がある。

天体の位置をしめすために、地球の緯度と経度のような座標系がつかわれてきた。この座標系は、地球上の緯度に相当する赤緯と、経度に相当する時角からなる。この航法を利用するときは、星の位置が、それぞれの位置関係で天球に固定されたとみなされ、太陽や月、惑星の動きは、この系では、天球を平均的な速度で横切るものとして表現される。

主要な海洋国は、航海に使用される天体の座標を記入した航海暦を毎年発行している。この航海暦には、航行に利用できるほかの天文学上の情報も記載されている。

航海暦をつかうとき、航行者はクロノメーターをつかって観測時間を正確にもとめなければならない。時間は、地球の自転と、仮想的に地球の周りを天体が回転することを基準にしている。天測航法で基本となる時間系は、太陽が1時間に経度で15度だけ西方に移動するということである。したがって、経度の差にもとづいて、地球表面にある2地点における時間の差が計算できる。たとえば、イギリスのグリニッジは0度にあり、日本の兵庫県明石市は東経135度にある。

航法三角形すなわち天文三角形は、天測航法のいちばん重要な部分であり、観測者の位置と、天体の地理的な位置と、観測者にもっとも近い地球の極とでできる球面三角形である。この三角形をえがくことで、天文学上の位置線をきめることができる。この位置線をもとめるために、かつては球面三角法をつかう必要があったが、今日では、航海暦のいくつかの表の中の1つをつかって、かんたんに算出できる。表には、観測者の位置と観測した天体の位置とがつくる天文三角形の解が、あらかじめ計算されている。

最新の天測航法では、航法三角形の解と、ある天体のみえる方向の仰角と天文学上の位置線がつかわれる。

9. 電波航法

電波航法は、船や航空機の位置やルートをもとめるために電波や電子技術をつかった機器やシステムを利用する(エレクトロニクス:レーダー:ラジオ)。電子的に正確な航行支援装置は、重要な情報をすばやく提供し、おもに視界がわるく、危険な水先海域で航行の安全性を高めるために利用されてきた。今日、これらの装置は、水先海域と外海の両方で広くつかわれている。無線をつかって無線報時信号、定期的な気象情報、暴風警報が放送され、放棄された船、航海灯の故障、ブイの漂流などの危険について情報が提供される。

無線は、航行の支援装置として1900年代初期にはじめてつかわれた。1930年代には、航空機に、地上から航行指示をうけとることができる通信機器と、地上の送信機の方位を知るために方向探知ループが装備された。現代の航行援助装置の基礎になったのは、無線方向探知機で、これは、航空機や船が、地上にある複数の送信機の方位をしらべて、その方位から位置決定をおこなうか、あるいは、航空機や船から送信される方位を複数の地上局がしらべ、その方位の相関関係から航空機の位置を決定して、航空機に知らせるものである。

9.A. 方向探知機

方向探知機は、広く利用されるようになった最初の航行支援装置である。位置がわかっている2台の送信機の方位を知ることができれば、受信している位置をもとめることができる。最新の方向探知機も基本は同じだが、従来の無線受信機にループコイルのアンテナがついたものである。このループアンテナは強い指向性をもち、ループの軸が無線局の方向をさしているときはその無線局から信号を受信せず、ループの面が無線局の方位になるようにむいたときに強い信号を受信する。中間の向きでは、信号の強さはやはり中間になる。実際には、わかっている無線局の周波数にあわせて、ループを信号の音がきこえなくなるまで回転させる。この位置を消音点とよぶ。このときループの軸は局の方向をまっすぐにさしており、航行者はこの向きを位置線として記入する。

自動方向探知機はモーターで、ループアンテナを回転させ、ループを常に消音位置にむける。モーターは、磁針のような指針をうごかしてループの向きをしめす。この無線方向探知機は、北はささずループアンテナに同調し、無線機が受信できる周波数で、連続的な電波を発信する無線局に対応して動作する。ほとんどの航空機や船は、このような方向探知機をそなえている。地上の無線方向探知機は、方位をみうしなった航空機を支援するために利用される。また、かくれた無線局をさがすためにつかわれる。

10. 無線航路標識

無線航路標識や方向探知機は、第2次世界大戦以前に一般につかわれていた、おもな無線航行援助装置であった。これらの装置は、低い周波数(200~415Hz)で作動するため、ベンディングや夜間効果などの影響をうける。

無線航路標識には、モールス信号を発信する2対のアンテナがあり、その一方のアンテナは文字A(トン、ツー)を放送し、他方は文字N(ツー、トン)を放送する。2つの文字を発信するタイミングは、文字と文字の間が長点(ツー)の時間、文字の2つの信号の間が短点(トン)の時間である。したがって、両方の文字の信号を一度に聞くと、パターンがくみあわされ、連続した音になる。

それぞれのアンテナの対による送信パターンは指向性をもち、それぞれ約90度の領域をカバーする2つの「象限」に投影される。1つの象限にある航空機は、AかNの1つの信号だけを聴取し、2つの象限の境界線上にあるとき、オンコース信号とよばれる連続音を聴取する。この境界線はビームとよばれ、幅はふつう約3度である。航路標識の真上の領域では、信号は聴取されない。この領域は無信号円錐域とよばれ、高度が低いときは小さいが、高度が高くなるにつれて大きくなる。

10.A. ラジオ・ビーコン

ビーコンは、無指向性アンテナをそなえた無線局で、おもにホーミングに利用される。低出力のビーコンはロケーターとよばれ、自動方位測定機とともにつかわれる。

10.B. オムニレンジ(VORまたはMOR)

オムニレンジは、実際には、無数のビーコン(すなわち360のビーム)をそなえた無線航路標識である。オムニレンジ局は、VHF(超短波)とLF(低周波)で作動する。VHFオムニレンジはVORとよばれ、低周波オムニレンジは、以前はLORであったが、ロランとの混同をさけるためにMORに変更された。VORの有効範囲は最高160kmである。

オムニレンジ局は、無線航路標識のアンテナと似た4つのアンテナと、中央に1つのアンテナをそなえている。中央のアンテナは、連続する基準信号を発信し、他のアンテナは、ラジオゴニオメーターによって、1800rpmで回転する可変信号を発信する。回転する信号が真北をさす瞬間だけ、位相が基準信号とあい、そのほかの時間はすべて方位にしたがった量だけ位相がずれる。受信機は、この位相のずれを測定することにより、局からの方位をもとめることができる。

実際には、オムニレンジ受信機には、3つの指針盤がある。その1つはめざすコースを手動で設定することができ、もう1つは航空機がコースの左か右にあることをしめし、もう1つは、「むかっている」か「とおざかっている」ことをしめして180度のアンビギティー(航法装置によって、点、位置線、位置面について、1つの解ではなく複数の解がえられた状態)を解決する。オムニレンジは、位置線をもとめるホーミングに利用することができる。

10.C. 電波高度計

電波高度計は、地上や建物からの高度を測定することができる。それに対してふつうの高度計は、気圧を測定するだけなので、もっとも近い地表の海抜とその瞬間の気圧がわかっていなければ、気圧を高度に変換することができない。高度計

11. 双曲線航法

双曲線は、2つの焦点からの距離の差がひとしくなる点の集合である。第1次世界大戦中に、大砲の音から、敵の大砲の位置を推定する方法が考案された。

その方法は、距離をおいたA、Cの2点に観測者をおき、それぞれ砲声が聞こえたときに手旗でB地点に合図する。B地点には、ストップウォッチをもった観測者を2名配置して、B地点で砲声を確認した時刻と、A、Cでの観測との時間差をそれぞれ計測する。A、B、Cのそれぞれの位置と、観測した時間差と音速から算出される距離をあらかじめ地図に記入しておく。この距離をしめす線は、AとBを2つの焦点とする双曲線と、BとCを2つの焦点とする双曲線になっている。大砲の発射地点は、それぞれの時間差に対応する2つの双曲線の交点にある、という方法である。

これと逆に、A、B、Cの3点から、同期させたパルス波を発射し、船で受信して時間差を計測すると、船の位置が決定できる。1組になっているパルス波の地上局をチェーンといい、発信するパルスを同期させていけば、複数のチェーンを順次つないでいくことができる。

3局のパルス周波数をかえて利用するのがデッカ方式、パルスを発信するタイミングを調整するのが、ロランとオメガという方法である。

双曲線航法は、方向と距離から位置決定をおこなう電波航法にくらべて高精度で、長距離の航法には適している。しかし、地上局をむすぶ直線上では精度が劣化したり、最低限3カ所の地上局が、連携して電波を発信する必要があり、設備のコストがかかること、双曲線を書きこんだ特別の地図が必要になることなどの欠点もある。

11.A. ジー方式

この装置はレーダーと似て、20~85MHzの周波数帯で作動する、パルス式3局双曲線システムで、光学的な航路標識よりも、正確に航行位置の決定ができる。ジー方式は、1937年に考案されたが、発達したのは40年になってからである。イギリス国内につくられた局が、西ヨーロッパで活動する航空機に信頼性の高い航路情報を提供した。

ジー方式のシステムは、主送信機と、この主送信機から80~160kmの距離にある2つの従送信機からなる。主送信機から発射されるパルスが、従送信機のパルス応答を厳密にきまった周期でくりかえす。3つのパルスが出る時間がたがいに既知の関係をたもち、受信機の陰極線管で測定した主送信機と従送信機のそれぞれの時間の差によって、双曲線状の位置線がもとめられる。主送信機と従送信機の2つの組み合わせから計測された2つの位置線によって、位置が決定される。

11.B. 遠距離航法(ロラン)

これは、海のむこうの船や航空機の遠距離航行を支援するために、アメリカが第2次世界大戦中に開発したパルス式双曲線システムである。ロランでつかわれる無線周波数は約2MHz(メガヘルツ:1MHzは100万Hz)で、太平洋をこえた遠距離でも受信することができるが、夜間以外は地上で遠距離での受信はできない。この作動方法は、ジー方式と似ており、ジー方式とロランの両方をつかった1台の機上システムが、アメリカとイギリスによって共同開発された。

11.C. レベッカ―ユーレカ方式

これは、おそらくもっとも有名な応答機システムである。レベッカが航空機搭載の呼びかけ機で、ユーレカが応答機である。このシステムは、従来の2次レーダー技術を利用したものである。航空機の機首近くの中央アンテナから呼掛けパルスが出され、応答機からの応答パルスは、機首の両側にある2つのアンテナで受信される。ピックアップは、陰極線管の縦軸に表示される。応答機のパルスは、軸をよこぎる光点として表示され、距離は光点の位置によって縦軸にしめされる。

11.D. コンソラン

このシステムは、局の方向をもとめることができる符号化した信号を発信し、搭載しているすべての航行装置とは独立して、正確な方位を決定できる。コンソラン信号は、およそ1300km以上まで使用可能で、アメリカでは3つのコンソラン局が稼働している。

11.E. 地上誘導着陸装置(GCA)

きわめて精度の高いマイクロ波レーダーをそなえた計器進入装置で、航空機の位置を、距離、方位、および仰角でしめす。この装置は、おもに低い雲があったり、水平方向の視界がわるくて危険なときに、パイロットが目視で着陸できるように設計されている。このシステムを航空機と地上におき、操作になれれば、視界がほとんどゼロの状態でも緊急着陸が可能になる。

GCAは、2組のレーダースコープを使用する。1組のレーダースコープが、15~25kmほど離れた距離にある航空機をさがす。もう1組のスコープを利用する制御装置は、着陸をまつ航空機と通信しつづけ、それぞれの航空機を衝突の危険がない別々の高さで迂回(うかい)するように指定し、ふつうの進入パターンにそって進入の最終段階までみちびく。最終の進入段階では、最終進入制御装置が、高精度スコープで、おもに高度と横位置のグライドパスからのずれを言葉の指示により放送して、パイロットを滑走路のほぼ終端までみちびく。

11.F. 計器着陸システム(ILS)

ILSは、おもに計器進入用に設計されたが、緊急時の着陸用にも使用することができる。このシステムは、無線航路標識のビームのように、水平と垂直の2つのビームからなる。水平ビーム(いわゆるローカライザー)は、可視可聴式ラジオレンジ(VAR)ビームと同じで、ビームを4本ではなく2本だけつかう、ふつうの無線航路標識である。垂直ビーム(いわゆるグライドパス)は、きわめて幅が狭く、地上からの角度が2.5度だけかたむけられている。パイロットは、1つの指針盤上の水平と垂直の2つのポインターをつかって、2つのビームをたどる。

ILSとGCAは、ともに滑走路や進入路にそって統一された、明るい照明システムの補助標識をそなえているため、パイロットは、ひじょうに天候がわるくても地上を目視して、滑走路に対する航空機の位置をたしかめることができる。

現在使用されているほとんどの無線航行システムは、高速コンピューターによって操作されている。航空管制

12. ミサイル航法システム

ロケットやミサイルの発達によって、自動天文システム、ドップラー航法、慣性航法などの新しい高性能の電子機械システムの導入に拍車がかかった。

自動天文システムは、電子装置をそなえた星追跡システムとしても知られ、天文学上の解を計算して、その結果を天体を自動的に追跡するように設計された装置におくることができる。追跡装置は、その情報を、航空機の実際の位置を記録するコンピューターにフィードバックする。

オーストリアの数学物理学者C.J.ドップラーの名に由来するドップラー航法は、おもに航空機の航行に利用され、近づく面と遠ざかる面で、レーダー波が反射されるときの周波数の変化を解析する。ドップラー効果

慣性航法は、慣性誘導にもとづくもので、飛行中の航空機の外から視覚的または電子的な情報をまったくうけない自立システムである。このシステムは、ジャイロスコープによって変動しないようにしたある種の加速度計で、出発地点からの航空機の加速度の大きさを3次元で記録し、この加速度からコンピューターによって航空機の正確な位置を把握する。

13. GPS

GPS(Global Positioning System)は、別名衛星測位システムなどとよばれる。多数の移動衛星(人工衛星)から電波を受信し、地球上の任意の地点の位置決定をおこなう方法である。同時に最低3個高精度の測位には4個の衛星から、ある程度以上の仰角で受信できると、正確に地球上の3次元の位置決定ができる。

本来は、アメリカの軍用に開発されたものだが、最近では、自動車に搭載されるカーナビゲーションシステムとしても利用されている。