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海洋
I. プロローグ

海あるいは海洋とは、塩水でみたされた広大な凹地であり、地球の表面の約4分の3を占めている。太陽系の惑星で海が存在するのは地球だけである。海洋についての研究は、海洋学とよばれ、現在の海の物理的、化学的、生物的な性質について考究する。海洋や海盆(海嶺)が地球の歴史の中で、地質学的にどのように変化してきたのかを理解することも、海洋学の主要な課題である。さらに、そのような研究を通じて、気候変動にかかわる大気と海洋との間の相互作用を評価したり、海洋生物の生産性を左右する要因についても考察がおこなわれる。

II. 海洋底の構造

海洋は約3億6100万km²の表面積があり、地球表面の約71%をおおっている。平均水深は約3800mであり、約13億7000万km³の体積がある。海洋はひとつづきの水たまりではあるが、大陸や海流を境界にして便宜的に区分されている。大西洋、太平洋、インド洋の3つの海洋は大陸によってへだてられている。南緯45度付近の南極周極海流より南の海域は南極海(南氷洋)とよばれ、大西洋の北側につづく北極付近の海は北極海とよばれる。海岸付近の大陸地殻が海水におおわれている浅い海は大陸棚といわれる。大陸棚は約200mより浅い水深で、平均で約75kmの幅があるが、まったくないところや1400kmの沖合いまでのびているところもある。大陸棚の外側は勾配(こうばい)がやや急な斜面になっている。これを大陸斜面といい、その先は深海底あるいは海溝につながる。

深海底につながる大陸斜面のふもとには、コンチネンタルライズとよばれる傾斜のゆるい斜面が形成されることがある。コンチネンタルライズは、堆積物がたまってできたものであり、その長さはおよそ600kmにおよぶ。海洋の中央部には海嶺、ところにより海膨(かいぼう)とよばれる大山脈がつらなっている。海嶺の頂部には軸方向の溝(中軸谷)ができているが、その溝は断列帯(フラクチャーゾーン)という亀裂によって段階的に左右にずれていっている。大西洋の中央部には大西洋中央海嶺(中央海嶺)が南北にはしり、南の先はインド洋につづいている。インド洋では2つに分岐して、ひとつは北上してアデン湾から紅海に達する。もうひとつは南極大陸とオーストラリアの間をぬけて太平洋東部の東太平洋海膨へとつづき、最後はカリフォルニア湾にいたる。その総延長は6万kmにもなる。

プレートテクトニクスによれば、海嶺の中軸部はマントルからマグマがわきあがってくるところである(ホットスポット)。マグマがかたまると新しい海洋地殻となって、プレートは両側に拡大していく。その拡大速度は、現在は1年に1~10cmである。大西洋の両側の大陸はかつてはひとつづきの大陸であったが、大西洋中央海嶺のところで分裂がおこって、それぞれのプレートにのって移動したため、しだいに分離していったのである。太平洋でも東太平洋海膨から両側にプレートの拡大と移動がおきている。しかし、そのプレートの先端は、太平洋の周辺部で別のプレートの下にしずみこんでいて、そこには海溝が形成されている。海溝は海洋でもっとも水深の深いところであり、太平洋の海溝では7000m以上の水深もまれではない。最大水深はマリアナ海溝の約1万920mである。また、プレートの沈み込み帯には活発な火山活動や地震活動がみとめられている。海底地形

1. 海底の観測

海底の地形や構造の調査には、音波や地震波を利用する。水深は、海面から音波を発射して、海底面から反射波としてもどってくるまでの時間をはかることでもとめる(測深)。海底面下の構造を調査するには、圧縮空気などにより小規模な水中爆発をおこして、強力な衝撃波を発生させ、反射波を高感度の受信機で記録するという方法がもちいられる。

III. 海底堆積物

海底の多くは堆積物によっておおわれている。その厚さは平均で約500mであるが、ヒマラヤ山脈からの堆積物がたまっているインド洋では10kmに達するところもある。中央海嶺のように海洋地殻がわかいところでは、ほとんど堆積物におおわれていない。堆積物の調査には、ピストンコアラーやドレッジャーなどといった機器での泥の採取もあるが、深海掘削計画のような大がかりな深海探査計画もあり、世界じゅうの海底から堆積物試料が回収されている(深海探査:深海潜水艇)。

堆積物は鉱物の粒子や生物の遺骸でできている。その種類は、水深や陸地からの距離により変化し、また海底火山の存在や、生物生産性の高い海域か低い海域かといった地域性も影響する。粘土鉱物(粘土)は、大陸の岩石が風化してできるものであり、河川や風によって海にはこばれるため、深海底の堆積物にも多くふくまれる。風化や浸食で陸からはこばれてきた砕屑物(さいせつぶつ)は、河口付近や大陸棚に厚く堆積することが多く、粘土のような細粒のものは、広範囲の海洋にゆっくりと堆積する(堆積作用)。これらの堆積物は、ときどき発生する強い流れによってまきあげられて、別の場所へ移動してしまうこともある。深海の堆積物には、このほか有孔虫や珪藻などの石灰質や放散虫のケイ酸質の殻(から)などもふくまれている。

IV. 堆積物の年代測定

海洋表層には、顕微鏡でないとみえないような微小なプランクトンが、たくさん生息している。その中でも浮遊性の有孔虫や珪藻などは、殻をもっているため、死ぬと水中を落下して海底へとふりつもっていく。こういった微小プランクトンは、生物自身の進化的な変化や生息環境の変化により、地質時代を通じて新しい種が出現したり、元の種類が絶滅してしまったりすることが知られている。したがって、堆積物中に保存されたそれらの生物の殻の中から、時代に特有の種類をみつけだすことで、堆積物の年代をきめる手掛かりがえられる。また、これら微小プランクトンの中には、寒暖などの環境の違いによって、殻の化学成分に変化がおこるものがある。石灰質(炭酸カルシウムCaCO3)の殻をもつ有孔虫がそのひとつで、殻の中に固定される酸素の2つの同位体(16O(酸素16)と18O(酸素18))の比率は、有孔虫が生息していたときの海水中の同位体の比率と同じになる。

海水中の酸素の同位体の比率は水温や大陸氷河(氷河)の発達量などに応じて、世界じゅうで同時に変化することが知られている。したがって、堆積物中に保存された、有孔虫の殻の酸素の同位体比を、時代をおって分析して、変動パターンをえがくことにより、世界じゅうの堆積物をたがいに対比することができる。

もうひとつの方法として、堆積物の磁性を測定する方法がある。堆積物中には微小な磁性鉱物がふくまれていて、その磁性鉱物は堆積した当時の地球磁場の向きにならんでいる。地球の磁場は、地質時代に、何度も逆転をくりかえしていたことが知られている(→地球の「地磁気の逆転」)。地球磁場の変化は地球上のどこでも同時に記録されるので、磁性の測定によっても堆積物をひろい地域にわたって対比することができる。しかし、プランクトンの分析や堆積物の磁性の測定だけでは、堆積物の年代値(絶対年代)をもとめることはできない。

絶対年代の測定には放射性元素や放射性同位体が利用される。放射性元素によりもとめられた年代は放射年代とよばれる。たとえば、230Th(トリウム230)は30万年より新しい堆積物、炭素14法は4万年より新しい堆積物に、それぞれ適用できる(年代測定法)。また、プランクトンの種類や殻の成分の変化や地球磁場の逆転について放射年代をあらかじめ測定しておけば、プランクトンの殻の分析や堆積物の磁性の測定によっても、絶対年代を推定することが可能になる。これらの方法を総合して調査がすすめられた結果、海洋底の年代は2億年よりもわかいことが明らかにされた。

V. 海水の組成

海水は、大陸の岩石の風化と浸食によりもたらされたいくつもの塩類がとけこんだうすい溶液である。海水の塩分は溶存塩類の千分率(海水1000g中のグラム数:‰、パーミル)で表現される。海水の塩分は、河川のながれこむ沿岸では低く、蒸発の盛んなところ、たとえば紅海では41‰と高い。

一般の海洋では、塩分は平均で35‰であり、34~36‰の間で変化する。海水中の主要な陽イオンの含有量は、ナトリウムが約10.5‰、マグネシウムが約1.3‰、カルシウムが約0.4‰、カリウムが約0.4‰となっている。主要な陰イオンは、塩化物が約19‰、硫化物が約2.6‰である。溶存塩類にはそのほか、臭化物イオン、炭酸水素ナトリウム(重炭酸)、二酸化ケイ素(シリカ)、さまざまな微量元素、および無機栄養塩(無機養分)と有機栄養塩がある。主要なイオンを合計した濃度は、場所により変化しても、主要イオン間の比率は全海洋を通じてほとんどかわりがない。

主要栄養塩は主要イオンにくらべて量は少ないものの、海洋の生物生産にとってひじょうに重要である。微量元素もある種の生物にとっては、重要なはたらきをもつ。炭素、窒素、リンおよび酸素はほとんどの海洋生物にとって不可欠な元素であり、海水中では、炭素はおもに炭酸水素ナトリウム、窒素は硝酸、リンはリン酸として存在している。

VI. 水温

海洋の表層水の水温は、熱帯における30°Cから極地域における-2°Cまでの幅がある。-1.4°Cは海水の氷結温度である。表層水温は、高緯度になるにつれて低下する。また、季節による変化は、陸上の気温にくらべてずっと小さい。水温は、深さによっても違いがある。すなわち、一般に、水深100mまではほぼ一定であるが、100mより深くなると急激に低下し、およそ1000mでは5°Cになる。1000mより深いところでは、水温は徐々に低下して、最深部では、氷結温度よりわずかに高い程度の1°C前後になる。水温が急激に変化するところは、水温躍層とよばれる。

VII. 海流

海の表層には流れがあり、海流という。海流は大きな渦をえがくように海をぐるぐるとめぐっている。これを海流や海水の循環ともいう。海流の動きは風によりひきおこされるが、流れの向きは地球の回転によって変化する(コリオリの力)。北大西洋のメキシコ湾流と北太平洋の黒潮はその代表であり、どちらも海洋の東側の沿岸の気候をやわらげている。陸地から沖へむかう風が卓越するところでは、表層水も沖へむかってながれていく(→風の「卓越風」)。すると、ながれさった分をうめあわせるために、300mほどの深さから、冷たい水が表層へとわきあがってくる。海洋大循環

これを湧昇流(ゆうしょうりゅう)という。湧昇してきた海水は栄養塩を豊富にふくんでいるため、その海域は生物生産性が高くなって、よい漁場となる。深いところの海水が、栄養塩に富んでいるのは、有機物(有機化合物)の分解がすすむからである。植物プランクトンなどの光合成をする生物は、光のとどく深さでしか生育できないため、生物生産は、おもに海洋の表層でおこなわれる。それらの生物が死ぬと水中でしずみはじめ、深いところで分解されてふたたび栄養塩となって海水へとける。生産性の高い海域の多くは、海水の鉛直方向の混合が盛んな海域である。たとえば、大陸の西岸と南極の周辺海域は、ひじょうに生産性が高い。南極周辺海域では表層水が冷やされて沈降し、そこへ深層の水が湧昇してくる。

表層水の循環は、風と地球の回転の働きでおこるが、海洋の深層水の循環は、海水の密度の違いによっておこり、これをサーモハライン対流(熱塩循環)という。海水の密度は、塩分と水温によってきまる。海洋の表面で蒸発がおこると、塩分が増大して密度が高くなり、海水は重くなる。そして、まわりの海水より重くなると、沈降するようになる。

冷却も海水の密度を高める働きがある。氷ができるときには、塩類がはきだされてしまうため、海水が氷結しはじめると周辺の海水の塩分がふえ、そのため、ひじょうに重い海水が多量に形成される。南極大陸に近いウェッデル海ではこのようなことがおこっていて、そこから重い海水が沈降して、海洋の深層水がつくられている。これは南極底層水とよばれ、大西洋にながれだしたあと東へむかい、インド洋や太平洋に流入する。北大西洋でも高塩分で低温の海水の沈降がおこっていて、中くらいの深さまでしずみこんで、北大西洋深層水が形成されている。北大西洋深層水はゆっくりと南下するが、南極底層水ほど重くないため、やや浅いところをながれていく。表層の海流の動きははやく、メキシコ湾流では最大毎秒250cmに達する。いっぽう、深層水の流れは毎秒約2~10cm程度である。

海水はいったん沈降してしまうと、大気との接触がなくなるため、大気との間で気体の交換ができなくなる。海水にとけている酸素は、有機物の酸化につかわれるため、沈降した海水にふくまれる酸素は徐々に減少していく。そのため酸素の含有量を測定すれば、海水の沈降がはじまってから何年たったかをもとめることができる。炭素の放射性同位体である14C(炭素14)は大気中でつくられて、二酸化炭素CO2として海水中にはいりこむ。二酸化炭素は、海水中の炭酸水素イオン(重炭酸イオン:HCO3-)と平衡をたもった状態になる。14Cは約5700年の半減期で時間とともに放射性崩壊していくので、その放射能を測定することによっても、沈降してからの海水が何年たったかをもとめることができる。このような測定の結果、北大西洋と南極付近で深層水が形成され、それらがいっしょになってインド洋と太平洋に向けてながれていること、もっとも古い海水は、北太平洋の深層にあって、その年齢は1500年であることが明らかになっている。

VIII. 資源

海洋は、将来の食物の供給源として、有望視されている。生産性は海域によってことなり、高いところも低いところもある。光合成生物は、無機的な炭素や栄養塩と太陽光をもとに、有機物をつくりだすが、海に生息する光合成生物によりつくられる単位時間当たりの有機物の量を、その海域の生物生産という。海洋ではこのような生産は、植物プランクトンがになっている。植物プランクトンは動物プランクトンや魚類により捕食され、動物プランクトンや魚類のうちのあるものは別の捕食者(捕食)によりたべられてしまう(食物連鎖)。こういった生物たちの体をつくっている有機物は分解されて炭素や栄養塩になり、はじめの光合成の材料へともどっていく。海からえられる食物は、とくにタンパク質の供給源として重要である。

海洋における鉱物資源が注目されはじめたのは、つい最近になってからである。海水中にはさまざまの有用金属が多量にふくまれているが、海水の量は膨大であり、その中から金属を抽出することは容易ではない。たとえば、海水中には全部で100億tもの金がふくまれていると推定されているが、濃度が低すぎて回収は無理である。今日海水から採取されている鉱物の代表は、マグネシウム、臭素、塩(塩化ナトリウム)である。海底の砂利や貝殻は建設材としてもちいられることがあり、海底の砂利には少量ではあるがダイヤモンドがみつかることがある。リン灰石も海底でみつかり、リンをふくんだ鉱物であることから農業用のリン酸肥料として利用できる可能性がある。最近注目をあつめている海底鉱物資源にマンガン団塊がある。これは球形のかたまりであって、その中にマンガンを約20%、鉄を10%、銅、ニッケル、コバルトをそれぞれ約0.3%ずつふくんでいる。これらはすべて有用鉱物であるが、商業的になりたつほどの採掘はまだおこなわれていない(採鉱)。

海底下にある油田やガス田(天然ガス)は世界の産油量の約27%を産出している。そのほとんどは浅い大陸棚にあるが、深海掘削技術をもちいて、もっと沖合いの油田を開発することも期待されている。海底下の石油の貯留層は、商業的に利用できるほどの硫黄をふくむこともある。硫黄は、深海の熱水噴出孔からでる熱水中にも豊富にふくまれている。

海洋は、重要な代替エネルギー源のひとつであり、海水が太陽光を吸収してえた熱エネルギーや、海流からえた熱エネルギーを電気に変換する方法がある。この方法は海洋熱エネルギー変換法(OTEC)として知られている。

温度差発電:濃度差発電:海流発電:波力発電:エネルギー資源

IX. 海洋汚染

海は将来的にもさまざまの資源の供給源として期待され、また海水そのものを淡水化して利用することもあるため、海洋の保全に対する関心も大きくなってきている。工業や産業が発展するにつれて、産業廃棄物などが海洋投棄されることもふえ、沿岸の生態系が破壊されるほどになった。原油や化学物質の漏出による海洋汚染や下水処理への関心も高まり、資源の有効利用や廃棄物の計画的な処分の必要性に、注意がむけられるようになってきている。殺虫剤の流入や発電所からの温排水による、海洋生物への悪影響も心配されている。