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塗料
I. プロローグ

美観をととのえ、材料を保護する目的で表面にぬる液体で、空気にさらすとかたまる。塗料で材料の表面をおおうことを塗装という。ペンキやワニスなどの種類がある。ペンキは、着色顔料と、接合剤と、空気にさらすとかたまる亜麻仁油(あまにゆ)(アマ)のような液体の展色剤を混合してつくる。

展色剤とは、顔料の色がまんべんなくゆきわたるようのばす成分である。ワニスはニスともいい、かたまると透明な保護膜になる溶液である。不透明で色のついたワニスは、ラッカーとよばれる。

II. 歴史

ペンキの最初の用途は、材料を着色し、うつくしく仕上げることだった。酸化鉄、酸化マンガン、白土などの顔料が、アルタミラやラスコーの洞窟絵画で前1万5000~前1万年ごろ使用されていた(旧石器時代美術)。

アジアでは、鉱石からつくられたいくつかの顔料、調合された混合物および有機化合物が、前6000年ごろに知られていた。アイから抽出された染料である藍(あい)は、古代エジプト、ギリシャ、ローマ、インカの人々に知られていた。アラビアゴム、卵白、ゼラチンおよび蜜ろうは、それらの顔料に使用された最初の展色剤だった。

ラッカーは、中国で建物を塗装するのに前2世紀ごろに使用された。ヨーロッパでは、保護塗装は12世紀ごろにはじまる。亜麻仁油は、展色剤としてローマ人に知られていたが、15世紀には油絵に使用された。17世紀には、白鉛が白の顔料として広く使用されるようになる。やがて19世紀に顔料と展色剤を混合したペンキが商品として販売されるようになった。

日本では、縄文時代から漆(うるし)(ウルシ)をつかった塗料があり、その歴史は、5000年以上もさかのぼることができるといわれている。中国の三国時代には、密陀僧(みつだそう)漆という塗料があり、日本でも飛鳥時代にはつくられるようになっていた。これは、漆とはいっているが、実際は、密陀僧(酸化鉛)や酸化マンガンの粉とほかの顔料、樹脂を油で混合したもので、法隆寺の玉虫厨子などにつかわれている。日本で、西洋風の油性塗料がつかわれるようになったのは、ペリーが来日したときに交渉につかわれた部屋をぬったのが最初といわれている。

III. ペンキの化学成分

最近のペンキ成分は、いくつかことなる化合物からできている。展色剤は粘着性で薄膜状の塗膜を形成し、顔料は展色剤の中に分散され仕上げ薄膜に色をつけ被覆する。溶剤または希釈液は、塗膜がぬられた直後から蒸発し、最後に完全になくなる。展色剤には、乾性油がつかわれることが多い。

1. 展色剤

展色剤が合成樹脂(樹脂)の場合は、溶剤の中に分散していて、溶剤が蒸発するにつれて、高分子が相互に接触し、網状の分子構造になる。固化は、ドライヤーとよばれる触媒が、溶媒中に存在することにより重合が促進される。もっとも広くペンキの展色剤につかわれるポリマーの形は、アルキド樹脂である。それはグリセロールのような多価アルコールとフタル酸のような多塩基性酸(塩基性)のポリエステルである。そのほか、セルロースの重合が分解され、硝化された小さい分子が再重合されたニトロセルロース、フェノール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、ポリウレタンなどがある。レーヨン

2. 顔料

ペンキにはいる顔料は、微細な粉であり、それらは光を強く散乱したり、特定の波長を吸収して色をだす。代表的な白色顔料は、二酸化チタンのような無機酸化物(酸化物)、酸化アンチモン、酸化亜鉛などである。ほかには、硫化亜鉛、白鉛(鉛の水酸化炭酸塩、水酸化硫酸塩、水酸化リン酸塩または水酸化ケイ酸塩)および硫酸バリウムがふくまれる。代表的な有色顔料としては、酸化鉄(黄、赤または茶色)、酸化クロム(緑)、四三酸化鉛(赤)がある。鉛、亜鉛、ストロンチウムおよびニッケルのクロム酸塩は、さまざまな明度の黄とオレンジ色をつくりだす。ほかの色には、各種の有機物がつかわれる。

3. 溶剤

乾性油をつかった油性ペンキ用の溶剤または希釈剤は、一般に、10個の炭素原子をもつ環状炭化水素の混合物であるテレピン油である。また、希釈剤は石油から抽出された適切な揮発性成分である。ほとんどの合成展色剤用の溶剤は、アルコール、ケトンまたはエステルである。

4. 特殊ペンキ

エナメルペンキは、酸化亜鉛とリソポン(硫化亜鉛と硫酸バリウムの混合物)という白色顔料、茶色の亜麻仁油および上質ワニスでできている。蛍光ペンキは、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの蛍光性の硫化物をふくんでいる。水彩絵具としては、乾燥した固形またはしめった状態のいずれかで、どちらの場合も、アラビアゴムまたはデンプン質の糊(のり)に微粉末の顔料を分散させ、水分を保持して材料への密着をよくするために、グリセリンがくわえられる。

ほかのペンキとしては、1949年に開発された水性ラテックスペンキ(ラテックス)がある。合成展色剤は乳化されて、ごく微細な小滴となって水中に浮遊する。ペンキがかわき水分は蒸発し、顔料と展色剤粒がしだいに結合して、強固な薄膜を形成する。薄膜は湿気の通過を許容する。多くのラテックスペンキの使用は内装用に制限され、においがなく、つかいやすいために、広く使用される。

いくつかの用途では、固形乳剤ペンキまたは粉末上塗りが、液体ペンキにかわってつかわれるようになった。それらは、機械や窓枠などの金属表面にふきつけ、静電気で付着させ、熱で粉末を流動させて薄膜を形成する。

IV. 1000年も前からあった夜光塗料

わずかな光にも反応して明るくみえる塗料を蛍光塗料、まったく光がなくても、光を発するものは、夜光塗料といわれる。中国の宋の時代に太宗皇帝がみた絵のことが記録されている。この絵は、昼間はなにもみえないが、夜になると、牛が横になっているというものだった。太宗皇帝がある僧にたずねたところ、日本からの贈り物だということだった。牡蠣(カキ)の殻と硫黄(いおう)を粉にして熱すると夜光性の顔料がえられるので、おそらくその方法でつくられた塗料でえがかれたものと推定される。

V. ワニスと漆

ワニスは英語のvarnishからきた言葉で、塗装して乾燥すると、透明な被膜をつくる塗料を総称してつかわれることもあるが、大きく2種類の透明な塗料をいう。そのひとつは、油ワニスで、乾性油、樹脂を加熱し、溶剤にとかして製造される。もうひとつのスピリットワニス、樹脂ワニスまたは酒精ワニスとよばれるものは、シェラック、マニラコーパル、ロジンなどの天然樹脂をアルコール系の揮発性溶剤にとかしたものである(ラックカイガラムシ)。

日本のウルシからは、ウルシオールをふくむワニスがえられる。ウルシ科の植物ウルシの樹皮に形成層まで達する傷をつけ、しみだしてくる乳白色の樹液をあつめたものが生漆(きうるし)である。盛夏から9月中にかけてとられるものを盛漆(さかりうるし)といい、収穫量が多く、水分が少ないので、良質とされている。塗料としてつかう漆は、生漆を38~40°Cに加熱したまま数時間おいてできる黒目漆(くろめうるし)に亜麻仁油や顔料をくわえたものである。縄文前期の遺跡からも、漆をつかった木製の容器や弓などが発掘されている。

顔料と、希釈した添加物がくわえられることもある。こうしてえられた物質は、木、金属または陶磁器製品のうすい上塗りとして利用される。かたいときは、被覆を研磨剤でみがき、それに上塗りをする。輪島塗などの高級漆器は、30回以上の上塗りがほどこされる。