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| I. | プロローグ |
体の中にはいると病気をおこす異物を破壊する、生理的システム。免疫系が対応しなければならないものは無限にあり、体に侵入してくる無数の病原性の抗原(免疫系が異物とみとめるものをすべて抗原という)に適切に反応するためには、限りなく多様性をもたなければならない。免疫系に関係する複雑な生理的メカニズムについては、まだじゅうぶんわかっていないが、現在すすめられている研究によって、いろいろなことが解明されつつある。
| II. | 免疫にかかわる要素 |
3種類の細胞と3種類の水溶性のタンパク質がおもな構成要素で、この6つは血液中を循環している。
| 1. | 細胞 |
3種類の細胞とは、顆粒球(多形核白血球)、単球(マクロファージ)、リンパ球で、このうち核をもった顆粒球が血液中にいちばん多い。この白血球は体にはいってきた抗原を貪食(どんしょく)するが、この作用は、抗原が免疫グロブリンや補体におおわれていると、とくに強くおこる。貪食された抗原は、顆粒球の中にある強力な酵素の働きで破壊される。
血液細胞のわずかな成分である単球は、循環血液からでて組織にはいると、物理的性質と形がかわってマクロファージになる。単球も顆粒球と同じように異物をのみこみ、免疫グロブリンや補体とたがいに作用しあう。また、原形質の中に強力な酵素をもっている。さらに、単球には、リンパ球が効率よく免疫反応をおこなえるように抗原の構造を整理する働きもある。
リンパ球には、Bリンパ球とTリンパ球の2種があり、これらはいくつかの点で免疫系でいちばん重要な細胞である。Bリンパ球は、液性免疫に関係し、形質細胞に分化して免疫グロブリンとよばれる血清成分をつくる。Tリンパ球は、リンパ球の70%を占めていて、細胞性免疫に関係し、抗原を直接攻撃して殺したり、免疫系のほかの成分がつくられるのを調節して免疫反応全体を増幅したり抑制したりする。また、多くの種類のサイトカインをだす。Tリンパ球とBリンパ球には、ある特殊な抗原に一度にさらされたことがあると、それを「思い出す」能力があり、もう一度同じ抗原にさらされると、以前よりも効果的に抗原を破壊することができる。
| 2. | タンパク質 |
免疫グロブリン、サイトカイン、補体の3種類の免疫系に関係するタンパク質が血清(血液の液体部分)にとけている。抗体とよばれる無数の免疫グロブリンができて、それぞれある特殊な抗原と正確に結合し、これを体からとりのぞく働きをしている。このような無限の多様性が免疫系全体としての特性となっている。
サイトカインは免疫反応の調節に大きくかかわっている水溶性成分で、リンパ球がだすものはリンフォカイン、単球がだすものはモノカインとよばれる。また、進行中の免疫反応を増幅するもの、免疫系細胞に増殖するよう指示をだすもの、進行中の免疫反応をおさえるものもある。免疫系は、このようにして多くのほかの系と同様に調節されるので、はたらくのがふさわしいときには活動的にはたらくが、はたらきすぎることはない。
補体成分は、補体成分どうしで協力したり、免疫グロブリンと協力して適切な免疫反応がおこるように補助する。抗体が抗原にむすびつくと、補体成分もむすびついて複合体ができ、これによって免疫系細胞は抗原を食べやすくなる。
| III. | 免疫反応 |
これら6つの免疫を構成する要素が協力的にはたらいて、効果的な免疫反応が生じる。免疫反応に関係する多くの段階が研究され証明されているが、現在研究中でまだ理論にとどまっているものもある。しかし、一般には、免疫反応は次のようなプロセスでおこる。細菌のような病原性抗原が、皮膚などの体の最初の防衛線を突破すると、まず顆粒球と単球にであい、一部はあらかじめつくられている抗体と補体成分の働きで無害なものにされる。次に、抗原が侵入してきた場所でリンパ球とマクロファージがたがいに作用しあい、免疫反応を増幅する。
侵入してきた細菌に生化学的な「記憶」があるときには、もっと特異的で効率よく抗体がでてくる。このような免疫反応の増幅はいちばん近いリンパ節(→ リンパ系)や、もっとはなれた脾臓や骨髄のようなリンパ球をつくる場所でもおこる。
これらがすべてうまくすすむと、免疫系の働きが細菌の侵入をふせぐので病気がおきない。外部からの異物の処理がおわると、次に抑制的な自己調節機能がはたらいて、免疫反応がとまる。この抑制プロセスには、サイトカインがとくに重要な働きをする。もし、免疫系が正常に自己制御されなければ、ほかの免疫の病気がおこる。
このようにいろいろな作用が協力的にはたらいて抗原がこわされると、ふたたび同じ細菌が侵入してきたときには、免疫系はより効率よく対応できるように準備ができている。準備がじゅうぶんできていれば、その細菌は病気をおこす前にすっかり無害なものにされる。このような場合、その細菌に対して特異免疫があるといわれる。
| IV. | 免疫病と免疫不全 |
臨床的に重要な病気として、免疫系がうまくはたらかない病気と、免疫系が異常にはたらいてしまうためにおこる病気がある。免疫系がじゅうぶんにはたらかない病気には、それ自体の欠損や異常から発生した原発性のもの(先天的なものと後天的なものがある)と、ほかの病気が原因の続発性のものとがある。免疫系が異常にはたらいてしまう病気は、自己免疫疾患とよばれる。
原発性免疫不全はふつう先天的なもので、軽症のものから生命を維持することができないほど重症なものまでさまざまある。Bリンパ球がはたらかないために抗体がつくられないといった障害がかなり多く、500人に1人の割合であらわれ、この場合はくりかえし感染症にかかる。これには、大量の抗体をふくむガンマグロブリンを毎月注射すると、感染症にかからずにすむことが多い。Tリンパ球の機能や細胞性免疫がじゅうぶんでないものは、Bリンパ球性のタイプほど多くない。このタイプの免疫不全では、おもにウイルスや真菌(→ 真菌感染症)の感染症にかかり、Bリンパ球が原因のタイプほど治療が有効ではない。
いちばん重症なのは、Bリンパ球とTリンパ球の両方が欠乏するためにおこる複合免疫不全で、骨髄移植のような根本的な治療をしないかぎり死亡する。最近は、エイズ(後天的免疫不全症候群)が世界的な問題となっている。
続発性免疫不全は、毒性の強い薬剤や栄養不良が原因だったり、たとえば癌(がん)などが原因でおこることがある。それらはBリンパ球やTリンパ球が関係した免疫不全で重症度もさまざまである。原因となっている問題をとりのぞくなどして治療する。
自己免疫疾患に分類される病気は、正常な免疫反応の自己調節がはたらかなくなるためにおきると考えられる。不完全な免疫系が、正常な細胞やタンパク質をこわしたり、傷つけたりすることによって症状があらわれる。
アレルギーは、以前にふれたり食べたりしたもので、ふつう他の人には無害なものに対する異常な反応をいう。
| V. | 臓器移植でおこる免疫反応 |
免疫系は生きていくためには絶対に必要だが、臓器移植の場合には障害になる。正常な免疫系は他人の細胞を異物と考えるので、いったん免疫系が移植臓器を異物とみとめてしまうと、その移植臓器をこわそうとする。サイクロスポリンのような免疫抑制薬をつかわなければ移植された腎臓や肝臓や骨髄は拒絶されてしまうが、免疫抑制剤をあたえると、感染症をおこす可能性がある。臓器移植をうけた患者は、つねに、感染症をおこすか拒絶反応をおこすかの危険にさらされている。
| VI. | 癌との関係 |
免疫系と癌との関係については、長い間関心が集中している。癌患者は感染症にかかる率が高く、また、ある癌患者からとった細胞や血清をしらべると、免疫異常がみとめられる。逆にいえば、原発性免疫不全患者や免疫抑制剤があたえられている患者は、そうでない人より癌にかかる頻度が高い。また、癌患者に免疫力を高めるような治療をすると、わずかながら好ましい効果がみられる。これらのことから、免疫力を高めるような処置や免疫学的治療法は、癌治療にプラスの影響があるといえる。
| VII. | 免疫学研究 |
免疫学の分野では多くの研究がつづけられている。いま大きな関心をあつめている領域の1つは、免疫系がどのようにして無限の多様性を進化させてきたかという研究であり、もう1つは、ある特殊な病気と不完全な免疫制御機構との関係を分析することである。また、免疫不全の病気を治療するだけでなく、臓器移植や癌治療の成績をよくするような免疫反応をうまく操作できる方法をみつけようと、懸命な努力がなされている。1980年代の初め、抗原を認識するTリンパ球の受容体分子が確認され、インターロイキン2受容体遺伝子クローニングがおこなわれて、免疫系の研究に重大な進展がみられた。