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フェノール
I. プロローグ

本来は石炭酸、フェニル酸、ベンゼノール、あるいはヒドロキシベンゼンともよばれる特定の有機化合物をさしていたが、ベンゼン核などの芳香環の水素が一部、ヒドロキシル基(水酸基)に置換されたものを総称してフェノール類あるいはたんにフェノールという。

II. 本来のフェノール

特有の刺激臭があり、無色で潮解性(潮解)がある結晶。水溶液は、pH6.0の弱酸性で、ベンゼンの水素原子1個がヒドロキシル基–OHに置換された構造になっている。純粋なフェノールは、無色の針状結晶だが、空気または光にふれると、しだいに赤みをおびる。アルコール、エーテルなどの有機溶媒にはよくとける。100gの水には、20°Cで8.5g、40°Cで9.7g、60°Cで17.5gとけるが、約66°C以上では自由に混合する。かつては、石炭を乾留したときにえられるコールタールから分離されていた。

化学式C6H5OH、分子量94.11、比重1.071、融点40.9°C、沸点182°C。

III. 発見と用途

1834年、ドイツの化学者ルンゲが、コールタールの中からフェノールをはじめて分離した。67年にはイギリスの外科医J.リスターによって、傷や手術衣、医療器具の消毒薬として使用された。フェノールの希釈溶液には、すぐれた消毒作用があるが、濃度の高い溶液は腐食性で、生体組織に有害となる。現在では生体への刺激が弱く、大きな効力をもつ殺菌剤が、フェノールのかわりに利用されている。フェノールはコールタールからの抽出のほか、ベンゼンを原料にした合成法でも生産される。フェノールの用途は広く、樹脂、殺虫剤、爆薬、染料、洗浄剤に、またアスピリンのような医薬品の原料にもちいられる。

IV. 現在の製法

現在でもコールタールから製造されるものもあるが、経済性の面からほとんどは合成によっている。多数の合成法が開発されているが、主要な方法としてクメン法とトルエン酸化法がつかわれている。クメン法は、ベンゼンを出発原料にしてクメンC6H5CH(CH3)2を合成してから、酸化(酸化と還元)してクメンヒドロペルオキシドを合成し、触媒で分解してフェノールをつくる。トルエン酸化法は、トルエンをコバルト触媒で酸化して安息香酸C6H5COOHをつくり、さらに銅やマグネシウムの触媒で酸化してフェノールをつくる。

V. フェノールフタレインなどの指示薬

フェノールからは、化学分析でつかわれる各種の指示薬がつくられる。フェノールフタレインC20H14O4は、無色の結晶で、水にはごくわずかしかとけないが、あたたかいアルコールにはよくとける。フェノールと無水フタル酸とを、硫酸とともに反応させて縮合してつくられる。酸性では無色だが、pH8.3~10.0のアルカリ性では赤紫色に変色し、さらに強いアルカリ性では、ふたたび無色になるので、酸性・アルカリ性の指示薬として広く使用されている。

フェノールからはほかにも、フェノールレッドC19H14O5Sという指示薬もつくられる。この化合物は、フェノールスルホンフタレインともいい、赤色の結晶で、水にはほとんどとけないが、氷酢酸、フェノール、アルコールにはよくとける。pH6.8~8.4で変色し、酸性では黄色、アルカリ性では赤色をしめす。

VI. フェノール類

フェノールはベンゼンの水素原子1個をヒドロキシル基–OHでおきかえた化合物だが、ベンゼン以外の芳香族炭化水素でも、水素原子をヒドロキシル基–OHでおきかえた化合物は、一般にフェノール類とよばれる。またヒドロキシル基の数により、1価フェノール、2価フェノール、3価フェノールとよばれ、2価以上のものをまとめて多価フェノールという。クレゾールC6H4(CH3)OH、レゾルシンC6H4(OH)2、ナフトールC10H7OH、アントロールC14H9(OH)などをはじめ、フェノール類の種類は多数にのぼり、その多くはコールタールにふくまれている。

VII. フェノール樹脂

フェノール類とホルムアルデヒドの付加反応や縮合反応によって合成する合成樹脂を総称して、フェノール樹脂という。メラミン樹脂とならんで、代表的な熱硬化性の樹脂である。世界で最初に製品化されたベークライトをはじめとして、各種の材料が開発されている。フェノールを酸性またはアルカリ性の触媒をつかって縮合し、流動性のある物質がつくられる。酸性の触媒をつかうものをノボラック、アルカリ性の触媒をつかったものをレゾールという。ノボラックもレゾールも、熱をくわえていくとフェノールが–CH2–結合で網目のようにつながり、硬化していく。

耐久性、電気絶縁性、耐水性があり、機械的な強度もあるので、成形して食器、プリント基板、管などにつかうほか、完全に硬化していないものは、塗料、接着剤、鋳造につかう鋳型など広範囲に利用される。