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アヘン
I. プロローグ

ケシPapaver somniferumの未熟な果実を傷つけてでてくる乳液を乾燥させてつくる麻薬。ケシは西アジア、インド一帯がおもな原産地である。中毒性が強いので、「あへん法」によって栽培、利用などが規制されている。

アヘンは、茶褐色の餅(もち)状でまるい形にして商品化される。アヘンの作用の中心となるのは20種類以上ふくまれているアルカロイドで、そのうちのモルヒネが医療の場で鎮痛薬としてよくもちいられる。現在ではメペリジン(ペチジン)のような化学合成剤もつかわれている。モルヒネからはヘロインが合成される。モルヒネの数倍の強さの鎮痛作用をもつが、依存性も強く、いっさいつかわれていない。アヘンのアルカロイドでは、コデインも重要である。薬物依存症の「アヘン系」

II. 脳内物質との類似

人間の脳内では、エンドルフィンやエンケファリンという鎮痛作用のある物質がつくられている(疼痛の「神経伝達物質」)。アヘンの鎮痛薬としての働きは、これら物質とアヘンの分子構造が似ているだけでなく、アヘンが作用する神経の受容体(レセプター)と同じ受容体であるところから説明できる。

III. アヘン中毒

アヘンは依存性の強い薬である。アヘンを服用すると、初めはたのしく幸福な気分になる。しかし、連用していくうちに体がなれて、その効き目が弱くなる。同じような幸福感をえるには、体はもっと大量のアヘンを要求する。しだいに量がふえていき、アヘンがやめられなくなる。もしやめると、強い不快感をおぼえる。初めは幸福感をもとめて服用していたものが、最後には不快感をとりのぞこうとして、ますますやめられなくなる。アヘンには、呼吸抑制、縮瞳などの作用があり、急性毒性によって昏睡や呼吸麻痺で死亡することもある。中毒者には、慢性毒性によって栄養障害、呼吸器の合併症、低血圧などがみられる。

IV. 植民地主義とアヘン

紀元100年ごろ、アヘンは民間薬として、飲み物といっしょにとるか、固形のままのみこむかたちで服用されていた。17世紀半ば、アヘンが中国にもちこまれ、吸煙されるようになると、深刻な中毒問題がもちあがってきた。インドでとれたアヘンは、イギリスの東インド会社によって大半が中国にもちこまれ、イギリスの工業製品は中国へ、中国の茶はイギリスへという三角貿易が成立していた。中国でのアヘン中毒は18世紀後半にはいよいよ深刻さをまし、官界にも広がった。中国ではアヘンの規制と西欧とのアヘン貿易を禁じた。これが原因でアヘン戦争(1839~42)がおこる。同じころ、アヘンはヨーロッパと北アメリカにももちこまれ、鎮痛薬という本来の目的をよそに、快楽をもとめて利用され、中毒者をたくさんだすことになる。

アヘンによる重大な被害を経験した中国では、アヘンをはじめとする麻薬類にはきびしい法規制をおこなっている。

V. 医療への利用

アメリカでは、南北戦争(1861~65)の最中、皮下注射器が発明され、外科手術では麻酔用にモルヒネ注射がかかせないものとなった。当時医師は、モルヒネが直接体内に注入されれば、吸煙したり食べたりすることによる中毒症状をなくすことができると期待していた。しかし、結果は逆で、中毒者がふえてしまった。1898年にヘロインがつくられたときも同じ期待があったが、やはりなくなるどころか、アヘンよりもはるかに強い依存性をしめした。

VI. 法による規制

アヘンは、世界的に生産、利用が規制されている。日本でも1954年に「あへん法」が公布され、医療と学術研究用以外の栽培、利用は許可されていない。アヘン中毒の治療には、ヘロインやモルヒネと同じ作用をもつメサドンという化合物がアヘンの代用品としてもちいられる。しかし、メサドンそのものにも中毒作用はある。アヘン中毒から完全に脱するには、心の面でも社会への適応の面でも、長い年月にわたるリハビリテーションが必要である。

麻薬:薬物依存症