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繊維
I. プロローグ

細長い固体で、動物、植物、鉱物から、または化学合成によってつくられるもの。断面積が肉眼で確認できないのに対して、極端に大きな長さをもっている。

商業的につかわれるのは直径0.004~0.2mmのもので、10~15mmの長さの短繊維(ステープルまたは裁断したもの)、単一の繊維が連続している単繊維、連続した繊維がねじれのないまっすぐな束になっているトウ、連続した繊維がねじれた束になっている紡績糸、などの形態に分類できる。本来は、セルロースやタンパク質、合成高分子といった有機物だが、炭素繊維や金属繊維のような無機物もある。

これらの繊維は糸、紐(ひも)、あるいはロープにしたり、フェルト(不織布)にしたり、テキスタイル(織物)にしたりする。強度のある繊維は、2つ以上の材料からつくる複合材料の補強材としてつかわれる。

II. 動物繊維

毛織物(広い意味のウール)をつくる動物繊維は、タンパク質の複合体である。ほとんどの有機酸には耐性があり、硫酸などの酸には強いが、アルカリには弱く、水酸化ナトリウム(NaOH)のような強いアルカリにはとけてしまう(酸と塩基)。また、塩化物をもとにした漂白剤(漂白)では傷みがはげしく、羊毛や絹は高濃度の次亜塩素塩酸漂白剤にはとけてしまう。

1. 絹とシルク

絹の主要成分は繊維状タンパク質の一種のフィブロインである。昆虫やクモの腹部からでる長い繊維は、英語ではすべてsilkといい、これらの小動物の体内で生成する原理は似ている。しかし、自然の繊維では絹だけが1000m以上の長さになる。昔はクモの糸を測量の光学機器の照準につかったこともあったが、商業的な織物につかわれているのは、カイコの繭からできる絹だけである。絹の繊維はあつめられて織り糸になるが、工場紡績の場合には、ステープルの形で生産されることが多い。

2. ウール

羊毛などの動物毛や毛皮の繊維成分は、タンパク質の一種のケラチン(毛)である。動物毛は90cm以上の長さになることもあるが、ふつうは40cm以下である。そのため、織物にできるものはつむいで紡績糸にし、それ以外はフェルトにする。ヒツジ以外の動物の毛がウールとして市場で売買されるときは、「ラクダ」、「アルパカ」、「カシミア」といったように、毛をとった動物名で流通している。

3. 羊毛

毛織物につかわれる主要な動物繊維は羊毛である。野生のヒツジのむく毛(にこ毛)は短く、上部の長くてあらい毛でまもられている。羊毛をとるために交配されたヒツジのむく毛はより長くなっている。むく毛からできた紡績糸は紡毛糸(せまい意味のウール)と梳毛糸(そもうし:ウーステッド)にわけられる。長さ5cm以下のむく毛は、ちぢれてやわらかい紡毛糸になり、長いむく毛は滑らかで丈夫な梳毛糸になる。

4. そのほかのウール

織物につかわれる動物毛にはラクダ、リャマ、アルパカ、グアナコ、ビクーニャ、ウサギ、トナカイ、アンゴラ、ヤギ、カシミアヤギがある。ミンクやビーバーの毛は、そのほかの動物毛と混合してぜいたくな紡績糸をつくるのにつかうこともあるが、通常は毛皮としてそのままつかわれる。牛や馬の毛は室内装飾用など、とくに耐久性が必要な用途向けにフェルトにしたり紡績糸につむいだりしてつかわれる。人間の髪の毛でさえ織物にされたこともある。

III. 植物繊維

植物繊維のほとんどはセルロースである。動物繊維のタンパク質とことなり、アルカリとほとんどの有機酸には耐性をもっているが、強い無機酸では分解する。漂白剤の使い方をまちがえると、いたんだり切れたりする。

1. 植物繊維の種類

植物繊維にはおもに4つのタイプがある。種子の周囲をとりまくやわらかい毛は種子繊維、双子葉植物の樹皮と幹の間にある丈夫な繊維は靭皮(じんぴ)繊維、単子葉植物の葉と茎にある丈夫な繊維は維管束繊維(維管束)といい、さらに植物茎繊維がある。それ以外に、用途はかぎられるがラフィアのような葉の皮をはいだもの、ココヤシやヤシの繊維のように果実の外皮の繊維がある。

2. 木綿

商業的に重要な種子繊維は、綿花からとれる綿とカポックの2つである。綿の繊維はワタの種子の莢(さや)の中でそだち、織物産業でつかわれる唯一の種子繊維である。綿花には何種類かあり、それによって繊維の長さがちがう。長いステープルの繊維は細くて強い糸になり、良質の布をおることができる。短いステープルの繊維は耐久性のある布用のあらい糸となる。綿の糸は染色やプリントが簡単で、豊富な色とデザインの布を生産することができる。カポックは紡績はできないが、室内装飾用材料としてつかわれる。中が中空になっているので水にうきやすく、かつては救命用の浮きの装置につかわれていた。

3. 靭皮繊維

靭皮繊維は種類が多く、目の細かい織物からロープまで幅広く使用されている。リネン布はアマから、アサやジュート、ラミー、サンヘンプからは目のあらい布やロープができる。日本でできるミツマタやコウゾの靭皮繊維は和紙の原料になる。

4. 維管束繊維

維管束繊維にはリュウゼツラン(サイザル)、ヘニケン、マニラアサ、ユッカなどがあり、ほとんどがロープの材料となる。エスパストやイグサの茎、麦わらは帽子や敷物、畳表につかわれる。また、パイナップルは、かつては衣料品にもつかわれた。

5. 製紙原料

製紙(紙)にも広く植物繊維がつかわれている。綿やアマは目の細かいラグペーパーにつかわれ、アサ、ジュート、マニラアサもラッピングペーパーやそのほかの目のあらい紙の材料になる。新聞紙やクラフトペーパーは、木材繊維に適当な化学処理をしてつくる。木材繊維とバガス(サトウキビの繊維)は紙にすることもでき、似たような工程で建材にもなる。

IV. 無機質繊維

ガラスは広く商業用につかわれる唯一の無機質繊維である。高強度・高弾性繊維としてE.C.Sガラスがあり、プラスチックや金属の補強用としてつかわれている。なかでも、ガラス繊維強化プラスチックは用途が広く、船体や浴槽、ヘルメットなどに利用されている。また、石英ガラス繊維は光ファイバーにもちいられている。

1960年代初めまでには、酸化アルミニウム(またはアルミナ:Al2O3)繊維、炭化ケイ素(SiC)繊維、炭化ホウ素(B4C)繊維が、おもに耐熱用化合物として開発された(セラミック)。すぐれた耐熱性、耐酸性、高強度、高弾性などの特徴により、ヘリコプター、飛行機、ミサイル、人工衛星やスペースシャトル、およびスポーツやレジャーなど幅広い分野でつかわれている。

アスベスト繊維は以前は断熱や耐火用につかわれていたが、発癌(はつがん)性があることがわかってから使用されていない。

V. 合成繊維

19世紀末に、天然セルロースを原料にした合成繊維レーヨンがはじめて開発された。

1. レーヨンの製法

一般的なレーヨンの生産過程は、まず木材パルプからつくられる天然セルロースを化学処理してうすい液体にし、弱い酸をみたした槽に太い毛糸状にしておしだすと、純粋なセルロースになる。このように、レーヨンは完全に合成繊維というわけではないが、化学繊維の工業化への道を開いた。

2. ナイロンなど

1939年に製品が発売されたナイロンは、天然高分子ではないため、すぐれた強度をもっていた。さらに50年代になるとアクリル(ポリアクリロニトリル系)、アラミド(ポリアミド系)、ポリエチレン、ポリプロピレン(ポリオレフィン系)、ポリエステル、スパンデックス(ポリウレタン系)など、多数の合成繊維が開発された。合成繊維の一般的な紡績工程は、とかしたポリマーまたはポリマー溶液を、小さな穴からフィラメントが硬化するのに適した環境におしだすことである。

繊維の性質はベースとなるポリマー、紡績過程、さらに、引き伸ばし、焼なまし、仕上処理、コーティングなど紡績後の繊維の処理によってかわってくる。繊維の重さ、耐磨耗性、耐熱性、化学的な耐性、耐湿性、強度、硬さ、弾力性、染色のしやすさなどの性質は、これらの処理によって最大限にひきだされる。

3. 炭素繊維

炭素繊維と黒鉛繊維はきわめて強度が高く、複合材料の補強材としてつかわれている。代表的な炭素繊維は、不活性ガス内でレーヨンやポリアクリロニトリルを1000~1500°Cで焼成したもので、2500°C以上で焼成すると黒鉛繊維ができる。これらをPAN系炭素繊維とよんでいる。また、石油製品のコールタールやピッチからつくられるピッチ系炭素繊維もある。

ほかにベンゼンやメタンから気相成長させるものがあるが、最近では、ほとんどがピッチ系かPAN系になっている。ピッチ系には、繊維の長い方向に結晶がそろっている等方性と、一部別の方向をむいた結晶をふくんでいるメソフェーズがある。