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| I. | プロローグ |
物質の化学組成を明らかにしその量を測定すること。試料にどんな物質がふくまれているかを明らかにする分析法を定性分析といい、ふくまれている量を明らかにする分析法を定量分析という。たとえば、食塩の試料にヨウ素がふくまれているかどうかを決定するのが定性分析で、その試料にふくまれているヨウ素の量を測定するのが定量分析である。
化学組成の測定は、産業界でも、監督官庁にとっても、科学の多くの分野においても不可欠なものである。したがって、化学分析はそれぞれの分野ごとに特殊化されたさまざまな形態をとる。
| II. | 分析の準備作業 |
ステンレス鋼、ビール、指の爪、バラの花びら、煙、アスピリン、紙など、ひじょうに多種多様な物質の分析をおこなうことが必要となる。このような物質の成分やその量を決定するにあたっては、その前作業として、分析に必要な物質の量をさだめ試料の均一性をたもつためのサンプリング作業、試料から分析する成分を分離したり分析の妨げとなるこのましくない成分を分離したりする作業がおこなわれる。どのような分離方法が適切であるかは、分析すべき成分や試料全体の性質による。
| 1. | クロマトグラフィー |
クロマトグラフィーは、もっとも一般的に利用できる分離法であり、カラム充填物(じゅうてんぶつ)の性質や、試料と成分との相互作用の違いにより、さまざまな種類がある。クロマトグラフィーのうちでもっとも重要なものは、分子の大きさの差を利用して、大きな分子を分離するゲル透過クロマトグラフィーと、帯電あるいはイオン化した成分を分離する、イオン交換クロマトグラフィーの2つである(→ イオン交換)。ガスクロマトグラフィーでは、試料の揮発性成分が分離され、液–液クロマトグラフィーでは溶液中の小さな中性分子が分離される。
このような分離は、分析する成分を精製あるいはある程度まで精製すること、測定を阻害する成分を排除すること、あるいはこの両者を目的としておこなわれる。しかし、特異性や選択性が強く、他の成分を無視しても分析すべき成分に感応する分析方法の場合には、このような分離作業をおこなう必要はない。ガラス電極を使用した水素イオン濃度の測定は、分離作業を必要としない測定の一例である。
| 2. | 標準化 |
定性分析や定量分析をおこなう前に、標準化あるいは校正とよばれる作業がある。分析すべき成分に対する分析方法の感度や機械的・電気的計器の感度を、純粋な成分、あるいはその成分の含有量がわかっている標準試料をもちいて、校正あるいは標準化する作業である。
| III. | 分析結果の提示 |
定量分析の結果をしめす数値は、試料にふくまれるある成分の絶対量、あるいはその相対的な割合をあらわしている。後者は、重量パーセント濃度、モル濃度、あるいはppm(重量の百万分率)であらわすことが多い。分析結果の正確さは、その数値が実際の量にどれだけよく一致しているかということを反映している。
分析結果の精度は、その再現性に反映される。くりかえして測定した結果をあらわす数値がすべて狭い範囲におさまっていれば、その測定結果は精度がよいといい、再現性が高いという。しかし、測定結果の精度がよいといっても、かならずしもその測定結果が正確であるということを意味しているわけではない。なぜなら、測定過程のある部分が常に真の値よりも高いか、または低い値をしめす傾向があるかも知れないからである。分析方法を標準化することによって、このような定誤差(観測過程の偏りから生じる誤差)が明らかになることが多い。
測定における確率誤差(統計的にしか予測できない偶然による誤差)は、たがいに相殺しあいうちけされる傾向がある。ほとんどの場合、何度も測定し、その平均をとることによって正確さを向上させることができる。測定方法によっては、3~4回測定をくりかえすだけでよい場合もある。分析機器にコンピューターを接続した場合には、10万回の測定でさえ、統計処理(→ 統計学)を迅速におこなうことができる。
実際の試料の分析では、特定の試薬と試料成分との化学反応によって生じる色や熱の変化、沈殿の生成など、容易に判別できる性質が利用される。生成される沈殿の量を測定する重量分析や、試料成分と反応する試薬溶液の量を測定する滴定は、湿式分析とよばれる。これらの手法は、最新の手法と比較すると手間がかかり、測定にはある程度の熟練を要した。
電子機器を利用した機器分析は、1950年代に重要な手法として利用されるようになり、今日では、分析のほとんどはこのような機器を利用しておこなわれる。
| IV. | 無機定性分析 |
無機イオンの系統的湿式定性分析では、まず沈殿反応を利用して化学的性質の類似したイオンをまとめて数種のグループにわけるが、この操作を分属という。次に、さらに沈殿反応を利用して各グループの個々のイオンを分離し、分離されたイオンのそれぞれについて、各イオンに特有の沈殿を生じたり、特有の色になる確認反応を利用してその存在を確認する。
| V. | 有機定性分析 |
有機分析には、アルコール、アミン、アルデヒド、オレフィン(→ アルケン)、エステル、カルボン酸、エーテルなどの特定の官能基を検出するための化学反応が利用される(→ 有機化学)。ふつう、官能基の確認反応に先だって分離操作をおこなうことはない。たとえば、アルケン(炭素原子間に二重結合をもつエチレン系炭化水素)は着色した臭素溶液を脱色する作用をもっているので、この脱色作用を利用して確認することができる。有機定性分析、無機定性分析のいずれについても、最近ではより鋭敏で高い特異性をもった機器分析が利用されることが多い。
| VI. | 湿式定量分析 |
湿式定量分析法としては、おもに重量分析と滴定が無機物質の分析に利用される。重量分析の例としては、溶液中の塩素イオン濃度を決定するのに、水に不溶な塩化銀AgClの沈殿を生成させ、その沈殿をあつめて重量を測定する方法がある。重量分析ではひじょうに正確な分析結果がえられる。
滴定では一般に、たとえば酢酸を水酸化ナトリウム溶液で滴定するように、酸・塩基反応が利用される(→ 酸と塩基)。滴定では、適切な指示薬をつかって、ある溶液が中和されたときに、色が変化するような方法がつかわれる。よく利用されるもうひとつの反応に、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの試薬と鉛、水銀などの金属イオン溶液との錯体生成反応がある。滴定に利用する反応としては、迅速に完了し、あいまいな結果をもたらすような副反応をおこさないものが適している。有機官能基の反応よりも無機反応のほうがこの条件にあっている。
| VII. | 分光分析 |
電磁波と物質との相互作用など物質の分光学的特性を利用した分析法は、もっとも正確な機器分析法として、化学分析をはじめ、化学のあらゆる分野で利用されている。電磁波は、その波長領域によってX線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波、電波に分類される。
電磁波と物質との相互作用には、電子、化学結合内の振動、分子の回転、原子および分子内の電子および原子核のスピンのそれぞれ量子化(→ 量子)されたエネルギー準位間の遷移によっておこる、エネルギーの吸収あるいは放射がある(→ 量子論)。電磁波と物質との相互作用は、分光計(スペクトロメーター)、分光光度計、あるいは分光器(スペクトロスコープ)とよばれる装置で観測される。
これらの装置でことなる波長をもつ成分にわけられた(分光された)スペクトルは、分析試料によって吸収あるいは放射された電磁波の波長や強度を測定するのに便利なように、グラフや分光写真器でスペクトル写真として記録される。
| 1. | 吸光光度法 |
波長が連続的に分布する電磁波が物質を通過すると、その物質にふくまれる成分に固有の波長の電磁波が吸収される。この吸収スペクトルを測定する分析法を、一般に吸収分光分析あるいは吸光分光分析という。吸収された波長からその成分がわかり、その吸収の強度を測定することによってその成分を定量することができる。
可視・紫外領域の電磁波の吸収を測定する吸光光度法は、比色法または比色分析(→ 比色計)ともよばれ、有機物質および無機物質の定量分析法として広く利用されている。試料溶液と既知濃度の標準溶液に特定の波長の光を透過させ、両者の透過率を比較することで定量する。吸光度は光が通過する距離と物質の濃度に比例すること(ランバート・ベールの法則)を利用した測定法である。
| 2. | 赤外線分光分析 |
主として赤外吸収スペクトルをもちいる分光分析法。赤外吸収スペクトルは微細な構造をもち、それぞれの分子に特有のパターンをしめす。これは、赤外線吸収が主として分子中の原子核の振動に関係し、その固有エネルギーが分子の構造の違いを敏感に反映するためで、分子がことなればその赤外吸収スペクトルもかならずことなる。また、有機化合物におけるオレフィン、エステル、アルコールなどの官能基もそれぞれ特有の赤外吸収スペクトルをもつため、それぞれの基の有無を知ることができる。
現在数多くの化合物の赤外吸収スペクトルがデータベース化されており、コンピューターで検索して試料化合物の赤外吸収スペクトルと比較すれば、その化合物を同定できる。とくに有機化合物の定性分析には、ひじょうに有効な手段である。
| 3. | 核磁気共鳴分析 |
磁気モーメントをもつ粒子に外部から電磁波により磁力線の方向が周期的に交互にいれかわった交番磁場をくわえると、特定の周波数に対して共鳴をおこして電磁波が吸収される。この現象を一般に磁気共鳴といい、吸収のおこる周波数や吸収スペクトルの波形から、物質内部の電子や原子核の状態を知ることができる。
原子核のスピンがしめす磁気共鳴を核磁気共鳴(NMR)あるいは核スピン共鳴という。もっともよく利用される水素の核磁気共鳴スペクトルを例にあげれば、化学的な状態がことなる水素はそれぞれことなるエネルギーをもった電磁波を吸収し、たとえば有機化合物中のメチル基(–CH3)と塩素などのハロゲンをふくむハロアルキル基のひとつ–CH2Cl基のそれぞれの水素の核磁気共鳴スペクトルはひじょうにことなっており、はっきり分離したピークをしめす。このため、核磁気共鳴は、有機化合物の分子構造を推定する強力な定性分析手段となっている。
| 4. | 蛍光分析 |
吸光光度法の場合と逆の現象を利用した分析法である。この場合には、試料中の分子はその構造に固有のあるエネルギーをもった光によって励起され、試料の濃度に比例した強度の蛍光を放射する。この分析法は、きわめて感度の高いのが特徴で、生体物質の定量などに利用される。
| 5. | 原子発光分析と原子吸光分析 |
試料を高温に熱して原子やイオンに分解したときに、その原子やイオンが放射あるいは吸収する、その元素に固有のエネルギーをもった可視・紫外領域の電磁波を測定する分析法。放射あるいは吸収される電磁波の波長から成分元素の種類が判定され、その強度から各元素の含有量がもとめられる。
たとえば、食塩を炎の中にいれると炎が黄色くなるが、これは食塩にふくまれたナトリウムが、可視光の黄色に相当する波長の電磁波を放射するためである(→ 炎色反応)。これらの分析法は、とくに低濃度の金属元素の定性・定量分析に有効である。
| 6. | 質量分析 |
原子や分子のイオンの質量の差が、電磁相互作用におよぼす影響を利用した分析法。イオンの流れに直角に磁場を作用させると、イオンは電荷(e)に比例した力を進行方向に直角にうけ、円軌道をえがくが、イオンの質量(m)が大きいほど円軌道の半径が大きくなる。この原理を利用して、質量と電荷の比m/eにしたがってイオンの分離をおこなう装置を質量分析器といい、これによって分離されたスペクトルを質量スペクトルという。
同位体の存在比の測定、原子質量の精密測定、微量化学物質の確認・同定などに重要な手法である。質量スペクトルの分離パターンは、分子によってきまっており、いわば分子の「指紋」のようなものである。したがって、有機化合物を真空中におき外部からエネルギーをあたえてイオン化し、その質量スペクトルを測定すればもとの分子の構造を知ることができる。
| 7. | 蛍光X線分析 |
物質に高エネルギーのX線を照射すると、その物質中の元素に固有のエネルギーをもった蛍光X線が放射される。この蛍光X線を測定する分析法を蛍光X線分析という。放射される蛍光X線の波長から元素の定性分析が、またそれぞれの波長の強度から各元素の定量分析ができ、金属元素の分析に利用される。
| VIII. | 放射化学分析 |
これは、試料にふくまれる元素の原子核が放射性崩壊するときにアルファ粒子(a粒子)、ベータ粒子(β粒子)、ガンマ線(g線)の形で放出される放射能を検出し、その元素の定性・定量分析をおこなう方法である。試料を中性子などの高エネルギー粒子で照射することによって放射性核種が生成される。これらの放射性核種に特有の放射線エネルギーと半減期から核種が同定され、その放射能の強さから核種の量が定量される。
中性子を照射して放射化する中性子放射化分析は、試料中の金属を同定するために、工業的に広く利用されている。中性子放射化分析は、迅速で高度に自動化された分析方法であり、また試料を破壊せずに分析できるという利点をもっている。
| IX. | 電気化学的分析法 |
イオンをふくむ溶液中に陽極(アノード)と陰極(カソード)を挿入して電極間に電位差(→ 電位)をあたえると、陽イオン(カチオン)は陰極にむかって移動し、陰イオン(アニオン)は陽極にむかって移動する。その結果、電極間に電流がながれる。このときにながれる電流の強さは、電極間の電位差と溶液中のイオンの濃度によってきまる。この原理を利用した電気伝導度測定法が、溶液中のイオン濃度の測定によく利用される。
これに関連した技術として、特定のイオンだけに感応するようにした特殊な電極が、ナトリウムイオンやカルシウムイオンの濃度、あるいは溶液のpHの決定に利用される。このようなイオン選択性電極は、臨床医学における重要な分析手段となっている。
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