| 検索ビュー | X線天文学 | 項目ビュー |
| I. | プロローグ |
宇宙から地球にやってくるX線を研究する天文学の一分野。X線は可視光線や紫外線よりもっと短い波長の電磁波である。X線は地球の大気を透過しないので、ロケットや人工衛星に搭載されたX線望遠鏡でのみ研究することができる。X線の検出にはガイガー=ミューラー計数管のような粒子検出器とともに、最近ではCCD(電荷結合素子)のような固体検出素子がもちいられる。
| II. | X線天文学の発展 |
X線はいくつかの機構によって放出される。熱的X線は数百万°Cのガスから放出されるが、これに対して、太陽の表面温度はせいぜい5500°Cである。高エネルギーの電子が強い磁場(→ 磁界:電場)の中を螺旋(らせん)をえがいてうごくとX線が放出されるが、これはシンクロトロン放射とよばれる。X線検出器による観測がはじめて大気圏外からなされるまでは、知られていたX線源の数も少なかったし、宇宙から大量のX線が地球にふりそそいでいるとはだれも思っていなかった。しかし、1962年6月18日、月の表面で反射される太陽X線を研究するためにアメリカのグループによって打ち上げされたロケットが、偶然に遠い宇宙空間に明るいX線源を発見した。のちに、さそり座(Sco)X-1と名づけられたこの天体の発見が、それ以後大きく発展したX線天文学の始まりだった。
1970年代初めまでには通常のガイガー=ミューラー計数管を搭載したウフル衛星によって、最初のX線掃天観測がおこなわれた。ウフル衛星は339個のX線源の位置を検出したが、そのうちもっとも明るいものはすべてわたしたちの銀河系(→ 天の川)内のものだった。この掃天観測は90年代、ドイツ、イギリス、アメリカが協力したX線天文衛星、ROSATによって劇的に拡大された。ROSATの観測は数千にのぼるX線源の位置を検出したが、その大部分はきわめて暗く、銀河系から遠くはなれており、クエーサーや活動銀河、また銀河団にともなうものである。
| III. | X線望遠鏡 |
X線は通常の反射望遠鏡では焦点をむすばせることができない。そこで、X線像をえるためには、円錐形(えんすいけい)の鏡を入れ子状に配置して焦点をむすばせる。NASA(アメリカ航空宇宙局)によってうちあげられ、1978年から81年まではたらいたアメリカのアインシュタイン衛星が、X線望遠鏡を搭載し、本物のX線像をとらえたはじめての本格的なX線天文衛星である。現在稼働中のX線天文衛星には、日本のすざく(SUZAKU)、NASAのチャンドラ、ヨーロッパ宇宙機関のニュートンがある。
| IV. | X線でみえる天体 |
X線望遠鏡で観測されるX線源にはさまざまな種類の天体がある。
| 1. | 太陽 |
太陽のコロナや外部の大気の温度は約100万°Cで、そこから放射されるX線は地球軌道上のX線天文衛星からくわしく研究できる。しかし、他の恒星からくる同様なX線は、距離が遠すぎるので検出することができない。
| 2. | 超新星残骸 |
恒星が星全体をふきとばす超新星爆発をおこすと、その爆発波は宇宙空間に秒速数千キロメートルの速さで広がっていく。この爆風は周りの星間物質に衝撃をあたえ、星間物質は数千万度の高温に熱せられて、大量の熱的X線を生じる。
かに星雲(→ 星雲)はもっとも有名な超新星の残骸(ざんがい)で、その超新星爆発は1054年に中国の天文学者によって観測された。この星雲の中心には高速に回転するパルサー、すなわち直径約20kmの中性子星がある。その質量は太陽の1倍から1.5倍で、1秒間に33回の速さで自転している。このパルサーからもX線が放射されるが、それはパルサーの強い磁場の中の高エネルギー電子のシンクロトロン放射によるものである。
| 3. | X線連星 |
1962年にさそり座ではじめて発見されたX線源(Sco X-1)は、13等の暗い青色の変光星に同定された。その後、この星は連星であることが判明した。この系は、ふつうの低温度星が19時間の周期で小さく高密度の天体とまわりあっているもので、この系の高密度星は中性子星もしくはブラックホールであり、低温度星からそれにむかって物質が移動している。移動する物質は角運動量をもつため、高密度星におちこむ物質はその周りにガスの円盤(→ 降着円盤)をつくる。このガス円盤の内側から物質が高密度星に落下していくが、そのとき莫大なエネルギーを解放する。落下するガスの速度は光速の数分の1という高速になり、それとともにひじょうに高温に熱せられ、大量のX線が放射される。
X線連星中の中性子星は、そのひじょうに正確な周期のパルス信号によって判別できる。こういうことは、質量をうしなっている星が高温で太陽の10~20倍程度の質量をもつ連星系中でよくみられる。こういう系の年齢はせいぜい数百万年である。なぜなら質量の大きい星の寿命は短いからである。ほぼ1秒で増光し、10~30秒で減衰する壮大なX線での爆発現象は、質量をうしなっている星が低温で小さな質量の、より年老いたX線連星でみられる。これらの爆発は中性子星の表面にふりつもったヘリウムの熱核反応によっておこる。
可視光線の観測からX線連星系中の伴星の運動をしらべると、いくつかの高密度星の質量は太陽の6倍以上であることがわかる。中性子星の質量は理論的に太陽の3倍をこえることができず、またこれまで質量が測定できた中性子星はすべて太陽質量の約1.5倍であることから、こういう重い天体はほぼ確実にブラックホールであるといえる。
| 4. | クエーサー |
高密度星に質量が流入することは、質量をエネルギーに変換するもっとも効率的な過程として知られているが、ひじょうに遠方にあるクエーサーのうちひじょうに明るいものでは、これと同様な過程が進行していると信じられている。この場合ブラックホールは太陽の数百万倍もの質量をもつ。X線天文衛星で観測されるかすかなX線源のほとんど大部分はクエーサーである。
| 5. | 星間物質 |
銀河団はX線をはなつ天体のうち宇宙でいちばん規模が大きいものである。銀河間の空間に存在するガスは密度がひじょうに低く、1m³当たり1000個から1万個の数の原子をふくみ、地球上で達成できる真空より密度が低い。この星間物質は、銀河団の銀河の運動により5000万°Cに達するほどの温度に熱せられている。銀河団は明るいX線源であるが、それは典型的な銀河団の直径が300万光年ほどもあり、ひじょうに巨大な体積を占めているからである。
| V. | 拡散状のX線背景放射 |
空をX線でみると、肉眼で夜空をみるときとはまるでことなった、おどろくべき様相がうかがえる。医療用のX線のような高エネルギーのX線でみると、拡散状のX線光が全天をおおっており、その強さはおどろくほど一様である。この拡散状のX線背景放射(→ 宇宙背景放射)の起源はまだはっきりとわかってはいないが、ひじょうに遠方の、すなわちひじょうにわかい活動的な銀河やクエーサーからきていると信じられている。低エネルギーのX線でみると、この拡散状の背景放射は構造性が高く、われわれの銀河系の銀河面に近づくにつれひじょうに明るくなる。これらは比較的わたしたちに近い、古い超新星残骸や星間ガスの熱い「あわ」から放射されている。こういう「あわ」のひとつの中に太陽系が存在しているという証拠があり、これは最近10万年の間に、太陽系の近くで超新星爆発がおこったためと考えられている。