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GPS(全地球測位システム)
I. プロローグ

Global Positioning Systemの略。人工衛星を利用した宇宙規模の無線航行システム(航法)。GPSは天候に関係なくユーザーが地球上のどこにいようとも、時間・位置・速さに関する情報を提供している。おもな用途は、カーナビゲーションや船舶・航空機の航法、測量などだが、ハンディタイプの安価な受信機もあり、登山者などが利用する例もある。

II. 歴史

GPSが出現する以前の1967年には、アメリカ海軍が開発したNNSS(Navy Navigation Satellite System:アメリカ海軍航行システム)が民間に開放されていた。このシステムは使用された人工衛星の名前からトランシット(transit)ともよばれ、数個の人工衛星を利用した測位システムの先駆けとなった。ただし、数時間ごとの情報しかなく、誤差が数百メートルというもので、90年ごろまで、おもに商船を中心に利用されていた。

GPSはアメリカ国防総省を中心に軍事利用を目的として1970年代に開発されたNAVSTAR(Navigation Satellite with Time And Ranging)が基となっている。73年にアメリカ空軍と海軍が共同で開発に着手し、78~85年に合計11機のナブスター衛星をうちあげて、システム試験がつづけられた。89年からは新たな衛星の打ち上げが開始され、合計26個の衛星を地上2万kmの軌道上に配置した。このシステムがGPSとして、民間でも無料で利用できるように開放されたのは、93年12月に国防総省がアメリカ運輸省に対して正式な運用開始宣言を通達したときからである。高精度のわりに比較的安価な小型装置でも利用できるため、従来の航行補助だけでなく他分野でも大いに利用されている。

1. そのほかの衛星測位システム

アメリカのGPS独占状態に対抗するため、旧ソビエト連邦(ソ連)でも1970年代にGPSと同様の機能をもつ衛星測位システムであるグロナス(GLONASS:Global Navigation Satellite System)を開発した。ロシア軍が運用しているGLONASSは、96年には24衛星をつかって全世界を24時間カバーしていたが、その後のロシア経済の衰退によって、95年以降は新たな衛星の打ち上げがなされていなかった。しかし、2001年からシステムの修復がはかられ、08年12月には20衛星にまで復活。ロシア全域をはじめ、地球のほぼ全域を網羅できるようになり、10年までには予備をふくめた24衛星によるシステムの完成をめざしている。

一方、EU(ヨーロッパ連合)でも独自の衛星測位システムであるガリレオ(GALILEO)が開発されており、高度約2万4000kmの上空に約30の衛星を配置し、2012年の運用開始をめざしている。日本では、準天頂衛星を09年から15年までに3個うちあげ、GPSやガリレオと併用することでアジアからオセアニアを網羅する計画がすすめられている。

III. GPSの仕組み

GPSは、地上2万kmの高度で1日に地球を2周する円軌道上にあるGPS衛星と、GPS衛星を追跡・管理をおこなう管理局、それにユーザー(利用者)の受信機から構成されている。

1. GPS衛星

アメリカのGPS衛星は、軌道傾斜角(地球赤道面と軌道面との傾斜角度)約55度の6軌道面にそれぞれ4衛星ずつ配置され、計24衛星で運用される計画であったが、2008年12月現在では30衛星が利用可能である。このGPS衛星からは、位置座標(緯度、経度、高度)および時刻のデータが軍事目的用に暗号化されたPコードと民間用に開放されたC/Aコード(Coarse/Acquisition Code)が刻々と発信されている。利用者は4個以上の衛星からのデータを受信することにより、自分の位置を計算して知ることができる(ただし、緯度と経度をもとめるには3個の衛星だけでも可能で、高度を知るためにもう1個の衛星が利用されている)。衛星からの距離は、衛星から発信された電波が受信機に到達するまでの時間からもとめられる。また、車や航空機など移動体で利用した場合は速度や方位も知ることができる。

GPSでは、信号の発信時間と受信時間との差を計算し、位置を特定している。そのため、GPSの人工衛星には、きわめて正確に時をきざむ4個の原子時計(→時計の「原子時計」)が搭載されている。なお、衛星に搭載された原子時計の相対性理論による誤差は1日当たり約39µ秒(距離に換算すると、約12kmの誤差となる)にもなるため、あらかじめ補正がなされている。そのため受信者は、衛星から発信される信号にふくまれる時間の情報をもとに、常に発信時間をつかむことができる。また、この信号には、衛星の位置を把握するためのデータと、正確な位置特定のために必要な修正データがふくまれ、受信者は受信時間と発信時間の差から、衛星までの距離を計算するが、その際、電離圏や対流圏による信号伝達の遅れを考慮にいれなければならない。衛星までの距離と、信号発信時の衛星の位置がわかれば、受信者は自分の3次元位置を把握することができる。

当初のGPSでは、民間が利用可能なSPSサービス(Standard Positioning Service:標準測位サービス)には意図的にSA(Selective Availability)とよばれる精度劣化操作がほどこされていた。そのため、100mにおよぶ測位誤差が生じていた。しかし、当時のクリントン大統領により2000年5月2日からはSAが解除され、精度は大幅に向上した。現在保証されている精度は2drms(The distance root mean square:放射状測位誤差の自乗平均の正の平方根)といわれている。GPSの場合、定点に受信機を設置して連続して測位をおこなっても、ランダムな測距誤差によって測位点はちらばってしまう。それらの平均位置までの距離を2乗平均して平方根をとったものをdrmsとよんでいる。そして平均値を中心としてその2倍、つまり2drmsが測位誤差の目安とされている。実際には平均位置を中心として、半径2drmsの円の中に全測位点のおよそ95%が入るといわれている。したがって、この数字は小さい方が高精度であるといえる。SA解除前の最大で100mといわれた測位誤差も30m程度にまで向上した。

また、GPS衛星の日付データは、1980年1月6日から何週間経過したかを10桁(けた)の2進数であらわしていたため、1024週までしか対応していなかった。そのため、こうした事態に対応していなかったカーナビゲーション用装置などでは1024週目に入る99年8月22日、週データがゼロにもどる事態が発生した。

2. 管理局

GPS衛星の追跡・管理は、コントロール・ステーションとモニター・ステーションをさす。コントロール・ステーションはコロラド州コロラド・スプリングスのシュリーバー空軍基地に、モニター・ステーションはハワイの空軍基地、大西洋のアセンション島をはじめ、大西洋、インド洋、南太平洋に設置されている。ステーションは人工衛星を監視し、モニター・ステーションであつめたデータをもとに、各衛星の軌道および時計の変化を予測している。予測データは、衛星をとおしてユーザーにとどけられる。時計と軌道の動きが許容範囲をこえないように調整するのも、重要な仕事である。

3. ユーザー

ユーザーは、GPSの信号を受信している軍関係者と民間人の設備をさす。軍関係のGPS受信設備はおもに、戦闘機、爆撃機、ヘリコプター、潜水艦、戦車、ジープなどである。軍隊では基本的な航行補助にくわえ、照準や空軍機による空中援護、ハイテク兵器などにGPSを利用している。

民間でも多くの人間がGPSを利用している。測量士はGPSを利用して測量の時間短縮をはかっている。航空機や船舶は航行ルートの誘導や、空港への着陸および入港にもGPSをつかっている。運搬車や救急車は、GPSの追跡システムを利用して経路をきめている。農業でも、肥料や殺虫剤の散布を監視しコントロールするのにつかわれている。カーナビゲーションや、スペースシャトルにも活用されている。GPS衛星と通信する必要がないため、ユーザーに制限はない。

IV. GPSを利用した測位方法
1. 単独測位

GPS衛星から送信される衛星の位置や時刻などの情報を1台の受信機で受信して、衛星から電波が発信されてから受信機に到達するまでの時間を測定し、距離に変換する方法。位置のわかっている衛星をうごく基準点として、4個以上の衛星から観測点までの距離を同時に知ることにより、観測点の位置を決定することができる。ただし、この方法では、衛星の位置誤差や衛星からの電波が対流圏や電離層を通過するときの電波の遅れなどから、約10mの誤差が生じる。おもに、船舶や飛行機、自動車などのナビゲーションとして利用されている。

2. 相対測位

2台以上の受信機をつかい、同時に同じ4個以上のGPS衛星を観測する方法。この相対測位法では、衛星の位置を基準とし、衛星からの電波信号がそれぞれの受信機に到達する時間差を測定して、2点間の相対的な位置関係をもとめる。2点の観測値の差から、観測値にふくまれる衛星の位置誤差や対流圏や電離層による遅延量(誤差)を消去することができる。そして、衛星から発射された電波が各受信機に到達するまでの時間の差を位相の差で知ることにより、100万分の1(10kmで1cmの誤差)の精度で2点間の相対的な位置関係を知ることができる。この方法は、後で計算処理が必要となるが、精度が高いことから、とくに地殻活動の感知などを目的とした利用がなされている。

3. DGPS測位とKGPS測位

DGPS(Differential GPS)測位とKGPS(Kinematic GPS)測位は、位置が確定している基準点と位置が知りたい観測点で同時にGPS観測をおこなう。DGPSでは、両点で単独に測位をおこない、基準点において位置成果と観測された座標値の差をもとめ、観測点に補正情報として送信する。一方、KGPSでは、両点で位相の測定をおこない、基準点で観測した位相データを観測点に送信する。観測点では、測位データと基準局から送信されたデータを解析することにより、観測点の位置を決定する。これらの方法では、各種の誤差要因が消去されるため、DGPSは数メートル、KGPSは数センチメートルの誤差で位置を決定することができる。

V. 拡大する応用例

GPSには民生用のカーナビゲーションや歩行者向けナビゲーションから、土木会社の計測、軍用の巡航ミサイルまで、じつに幅広い活用方法があり、さらにその範囲は拡大している。また、たんに自分の位置を測定するだけでなく、GPS端末とセンターをむすぶことで大規模な管理システムを構築するところもふえている。

最近の先進応用例としては、GPS機能付きの車載端末をつかって走行距離やガソリン使用量などの運行情報を蓄積、センターにその情報を送信することで自動的に日報を作成できる車両運行管理システムがある。従来から、GPS車載端末をもちいてセンター側が車両の運行位置やその状態を把握し、効率的な管理、運用をおこなうAVMシステムがあったが、これはその応用範囲を拡大するものといえる。

また、地図情報とくみあわせることで、カーナビゲーション・システムの活用シーンも拡大している。従来、カーナビゲーションではベクトル地図の情報と重ねあわせることで地図そのものを拡大、縮小させながら表示していたが、3次元地図とくみあわせることでよりリアルな情報の表示が可能になっている。このように2次元から3次元と表示される情報が1段あがることで、道路の勾配(こうばい)や曲がり角の微妙な角度などもわかるようになり、より安全で燃費高率のよい運転ができる可能性も出てきた。

歩行者向けナビゲーションでは、そのサービスに対応して飲食店の場所を提示するといった新たなサービスも登場している。警備会社も、従来のような専用端末ではなく、市販のGPS携帯でセキュリティー・サービスを提供するようになった。

GPSによって、今では山歩きなどもだいぶようすがかわってきた。昔の登山やトレッキングでは、5万分の1の地図とコンパス(方位磁石)は必携道具だったが、最近ではGPS受信機で自分のいる位置が正確にわかるようになった。

衛星からおくられてくる電波は同じでも、それを受信してどのように加工するかで活用シーンが大きくかわってくる。そのため、GPS受信機も携帯電話のようなハンディタイプのものから船舶用のGPSプロッターまで、さまざまなものが開発されている。